日本におけるティール型組織とは


7月26日(木)横浜市吉野町市民プラザで、今話題の書籍「ティール組織」日本語版で解説を書かれている嘉村賢州 氏(場づくりの専門集団NPO法人場とつながりラボ home’s vi 代表)を講師にお招きして「ティール組織に学ぶ新しい時代の個と組織のはたらくカタチ」セミナーを開催しました。

冒頭、嘉村先生より、ティール組織の概要についてお話がありました。

ティール組織の特徴とされているのが、

①一人一人が自由に意思決定しながら行動している「自主経営」であること

②エゴや自分(たち)のみの利益や合理性から離れた「全体性」(ホールネス)を重視していること

③自分(たち)の存在目的に耳を傾けて意思決定をしている(利益は副産物的なもの)

という3点です。

このような特徴をもつティール組織の会社は世界中で好業績をあげ、さらに顧客満足や従業員満足が極めて高いということで注目を集めるようになりました。しかし、それらの会社が連絡をとりあってティール的組織になったわけでなく、ほとんどお互い知り合いではなく、上記3つのような特徴をもつようになっているというのは興味深い事実だと思いました。日本にも、ダイヤモンドメディアをはじめ、すでにティール組織として何年も運営している企業があることも知られるようになってきました。

ティール組織といえば、リーダー不在、責任は全員で負う、人事部門や教育部門を(ほぼ)持たない、中期経営計画をたてない、など今の会社の常識ではどうしても理解できないことが多くあります。

第2部では、自身も中小企業の経営者であり、また、中小企業の人事コンサルを数多く手がけている弊社((有)人事・労務)の代表である矢萩も交え、弊社のESコンサルタント金野のコーディネートでパネルディスカッションが行われました。

パネルディスカッションの冒頭、嘉村先生より「ティール組織はすべてのことに対する答えでもなく、正しいというわけではない。ただし、組織の発達段階において、下の組織から上の組織のことは理解できない。逆は理解できる」ということ指摘がありました。つまり、グリーンやオレンジの組織にいる人たちは、ティール組織のことが理解できないということなのです。ティール組織では、グリーンやオレンジでは解決できなかった課題が解決できるようになってきています。そのことを考えると、やはり組織運営はティール的要素を取り入れていくべきなのではと思わざるを得ません。

ただ、今の日本組織に急に導入しても大丈夫なものなのか?このような疑問に対して、嘉村先生からは「日本でも多くのティール組織がそだってきており、土壌はある。ただし、ティール組織になるためには、絶対的にリーダーが変わらなければ組織はかわらないとされている」との話がありました。

続いて矢萩からは「完全なティール組織というものになるのはすぐには難しくても、ティール的な経営へとかじ取りをしていくことは必要ではないか。組織としグリーン的要素やオレンジ的要素を包括していながら、経営陣がうまく使い分けをしていくことが重要」との指摘がありました。そのうえで、組織がティール的組織に変容していくためには、

①「情報の共有」

②一人一人の役割を明確にする(貢献意識がはっきりと持てること)

③自由な組織で責任をもって行動ができる(一人一人が自由に意見が言え、意思決定ができ、安心できるコミュニティーであること)ことが大切であるとの話がありました。

そして、このような組織をつくっていくための具体的な人事制度として、ロバート・キーガン氏がとなえる「成人発達理論」に基づいた人事制度の構築・運用がその助けになるのではとの提言がありました。

成人発達論とは、人間は成人してからも成長することができ、その段階は大きく分けると5つに分けられるというものです。人事制度もこれらの段階を意識して、使い分ける必要があります。例えば、ティール組織では、人事評価といったものを行わず、賃金テーブルも存在しないということも珍しくないようです。ただ、成人発達段階において、3以下の社員に対して、評価の指標も示さず、賃金を話し合いなどで決定することは混乱を招いてしまい現実的ではありません。

つまり、この成長段階においては、オレンジ的組織に基づいた「目標管理」「能力評価」や「賃金テーブル」「成果賞与」といった従来の人事制度も、現時点では一定レベルで有効なのです。しかし、4以上の段階になると、このような定型的な指標で評価を行うことは無理がでてきてしまうのです。4以上の段階の人の特徴は「自分なりのしっかりとした価値観をもち意志決定ができる。自己成長に意欲あり、自分個人の利益よりもチーム全体の利益を優先させる視点を持っている」という特徴があります。このような特徴は、ティール組織を構成しているメンバーの特徴にも近いものがあります。このような4以上の段階にあるメンバーに対しては、従来のような仕組みを使うのではなく、「社外市場価値」と「社内市場価値」を用いて処遇を決定すべきなのです。

時間の都合で、企業が実施すべき具体的な施策に踏み込んでの話までには至りませんでしたが、参加者のほどんどが「時代の変化にともなう組織の在り方」について、現状のままではいけないという意識はもっていたようです。また、セミナー中もUMUというアプリを使い、参加者全員がリアルタイムで意見の交換や質問が共有されました。

このようなことが実現できていること自体、人と人、人と会社との関係性が大きく変化している表れだと強く感じたセミナーとなりました。

なお、弊社では、2018年9月より上記にも書いたような成人発達論をベースとした以下のような、ESクレドを軸とした「PFP(Pay For Performance)人事制度」をモニター企業と実践していく予定にしています。

  • 「社外市場価値」は、「賃金構造統計調査」などの統計調査や、どう職種の求人情報などから、その人物の客観的な市場価値を参考とする
  • 「社内市場価値」は「自社のクレド」と「管理職としてのコンピテンシー」の2つの項目により部門リーダーの権限で決定する。なお、社内市場価値を正確に把握するために、毎月チャレンジングシート(目標管理シート)に基づいて面談を行い、その時に来月期待すれクレドのレベルをすり合わせを行う。外部の状況は常に変化に対応するため、コンピテンシーは毎月、パターンランゲージで選択をさせる。
  • 半期たった時点で6か月間の点数の合計を出し、幹部会議で全幹部の意見を出し合う

これらの情報を総合的に判断して、最終的な報酬を含めた処遇を決定する制度です。