「脱ピラミッド型組織のチームとその働き方」について、ダイヤモンドメディア株式会社 代表取締役 武井浩三さんにお話を伺いました。
(コメンテーター:矢萩大輔 /聞き手:畑中義雄)

次に、人が働いているからにはお給料を払っているわけですが、どのようにお給料を決めて、どのように人を評価しているのかについて、教えてください。

武井:上司や部下がない組織なので、そもそも給料を決める人がいないのです。いわゆる一般的な給与査定とか査定のための面談とかが組めないのです。それで、どうしようかということで、最初は4人から始めた会社なので、みんなで会社のお金を見ながら「こうしようか、ああしようか」ということをやっていったのですけれども、その頃は全然簡単にできたのです。そんなにもうかっていないので。もうかっていないと、大体、問題は出ないのです。お金がもうかり始めると、どう分配するかが現実的な課題となってきて、難しくなってくるのです。

10名を超えた辺りから全員で集まることもだんだん大変になってきました。僕が全員の給料を決めたくないですし、みんなで話し合いたいけれどもなかなかそれも難しいし、職種がばらばらになってくると相互評価もできなくなってくるし、営業的な仕事とエンジニアとか管理部門とかで全然内容が違うのでどうしようかといろいろ考えた結果、会社の業績や全員の給料がオープンな状態で、それぞれが一緒に仕事をしている人に対して「この人はもうちょっと高くていいのではないか」とか「この人は会社の相場の中でもうちょっと低いほうが」とか「差がもうちょっとあるほうが」という相場という概念があります。

畑中:会社の中での相場ですか?

武井:そうです。そういうもので決めていけばいいのかなと。株式市場みたいな感じです。株式市場も、誰かが株価を決めているわけではないですけれども、需要と供給で価格が決まる。そういうもので決めるというか、着地させていけばいいのかなということを始めました。

畑中:ある意味、シビアですね。

武井:シビアですね。相場も社内相場と社外相場と2つあって、うちの会社ではマーケットバリューとか労働市場における価値というのですけれども、誰々さんがやっている仕事をアウトソースしたら幾らでできてしまうというのと照らし合わせて決めるのです。だから、めちゃくちゃシビアといえばシビアです。

ただ、これは矢萩さんとかに怒られてしまいそうですけれども、労働時間で給料が決まっていない会社なので、その人が会社にもたらしている価値で給料を決めるので、逆に言うと価値が高い仕事をしている人は全然出社しなくても好き勝手に休んだりしても給料は高いです。替えの利かない人は自然と給料が高くなる。それを考えるときに、このぐらいの人を採用するのは大変だとか、この人が転職したら幾らぐらいもらえるかという観点でみんなが話し合ってそれぞれ決めています。

畑中:矢萩先生は今の話についでどう思われますか?

矢萩:基本的に労働時間はどうしてもあるので、内心で言えば駄目なのだろうと思います。ただし、国も、これから労基法の改正の中で高度プロフェッショナルは労働時間で決めていくことはしないとか、課題に取り組む社員はこれからは裁量労働制の枠を広げるとか、限りなく武井社長の言っている方向に動いていかざるを得ないというようになってくると思いますし、ある意味では先取りしていく仕組みだと思います。

一応8時間や週40時間と決まっているからこうだというのは確かにそうなのですが、考えを一つ脇に置きながらも、労働時間をチェックする人は必要だけれども、そういった文化をつくっていくのはこれからは絶対に必要だと思います。

ある意味、欧米などはそういった裁量労働制の枠が非常に広く、そういう形でやっている会社さんも多いわけではないですか。それなのに日本はいまだに時間給から出ていかない。国は脱時間給をやろうなどという話をしていますけれども、いろいろな組合等から言わせれば、そんなのはまだまだ早いという話になってくるのです。その辺りの話はありますが、経営側の立場または日本の経済の立場から言うと、行き過ぎては駄目ですが、そういった概念は持っていかないと新しいことが起きないのではないかとは思います。

畑中:逆にこれは矢萩先生に先にお聞きしたいのですが、価値のある人は当然みんなが価値を認めてお給料も高くなっていく。その価値はどういうところに視点を置いていったらいいのでしょうか?自己評価の高い人とかがいますよね。俺のほうが価値が高いだろうというような。その価値はどう捉えたら良いのでしょうか?

矢萩:私などは、それは会社の中での文化だから、クレドだとか理念からというのがあると思うのです。でも、本来、武井社長の勉強会に行くと不文律の話などが出ていましたし、武井社長のところもそのような話をしていました。そういった目に見えない文化をどのように全員に感じてもらえるのかというところは大切にして、そこで価値を感じ取れるようなところは確かに必要だと思うのです。

畑中:武井社長はいかがですか?価値。難しいと思うのですけれども。

武井:数字で測れるものもあれば、測れないものもあると思うのです。われわれの仕事は特にITなので、頭脳労働というか、手を動かしている間だけが仕事として価値を生み出しているわけではないです。例えば家に帰ってお風呂に入りながらリラックスして仕事のことを考えていたら、それは仕事になってしまいます。それに対してお金を払うのか払わないのかという議論がもう線引きできないというか、そういうものになってきていると思います。

そういう中で、何に対してお金が発生するのかというと、時間的拘束は一つの目安にはなるともちろん思いますし、うちも業務委託さんと契約するときなどは月に20時間分ぐらいとか30時間分ぐらいを目安にと言って、お互い一つのバロメータとして握り合うことは結構します。でも時間に対してお金を払っているわけではなくて、その人が生み出す価値に対して結局は払っているというところだと思うのです。

でも、価値は、まさに目に見えないと、一人が完璧に評価できないというか、関わっている人が全方位的に見てようやく価値が見いだされてくるというか。例えばムードメーカーみたいな人もいるでしょうし、雑用みたいな仕事だと思っていたけれどもその人がいなくなったらすごく大変になってしまったとか。

結局、会社は、例えば営業の人だけが売り上げを立てているわけではなくて、その後ろにいろいろなものがあったりします。サッカーみたいなもので、みんなで点を取るではないですけれども、みんながいて初めて会社として成り立っているので、売り上げの何十%が営業の個人のインセンティブと切り分けていくことがナンセンスに見えてきたというか。でも、それも世の中が複雑になってきているから。営業で受注した人の個人の成果なのか、それともSNSで例えば前情報がいろいろ広がっていてそういうのがあったとか。因数分解しようとしてもできないぐらい複雑なのです。

畑中:事前にこういうルールで分配しようというものは全くないのですか?

武井:ないです。予算もないです。

畑中:では、利益が出て、先ほど言われていたようにみんなが全方位的に見て。

武井:いや。実は利益もあまり見ていないのです。われわれは10年間試行錯誤してきたので、給料を決める仕組みはかなりトライアル・アンド・エラーをして機能しているのですけれども、いろいろ世の中の給与制度を調べていくとPLに強くひも付いている傾向があると思いました。もちろん全てではないですけれども。でも、本来、会社にとって重要なのはBSです。

例えばビジネスモデルを強化するとか、マネジメントの仕組みをつくるとか、ブランドを強化したとか、そういう財務諸表にも乗らない会社の資産があると思うのです。第四象限でいうと、緊急ではないけれども重要というような。そこに時間を割くことが会社にとってはすごく重要です。でも、PLに結び付け過ぎると、そこの取り組みをしにくくなるというか、しても評価されなくなってしまうので、そういうガイドラインみたいなものは幾つか会社の中で持っています。

畑中:仕組みを使って利益を出すのも大事だけれども、仕組みやブランドをつくるほうも大事ですと。

武井:そうですね。

畑中:言われると納得はするのですけれども、それを運用していくのはなかなか難しそうな感じがします。

矢萩:難しいですよね。

武井:難しいですけれども。

畑中:日本の場合は必ずA・B・C・Dという評価をほぼ付けて、それに基づいて賞与とか昇給とか賃金テーブルで上がっていったり、要はランキングやレーティングをしてやっているのですけれども、今アメリカとかヨーロッパでは順位を付けない評価のほうが主流になってきているという話もあるのです。確かに、言われるように複雑になってきたら全く職種の違う人を並べてどちらが上だというのは難しいと思うのですけれども、その辺りで誰が上とか誰が下という思想とかレーティングは全くないですか。

武井:ないですね。

畑中:日本もそうなっていくと。

矢萩:私が気になるのは、外資のノーレーティングと武井社長の組織の自然(じねん)経営、ホラクラシーといってもいいと思うのですけれども、そこの違いを知っておきたいというのがあるのです。例えばノーレーティングをやっている会社さんなどでは、チェックインシステムといって、毎月だとか適宜に応じてしょっちゅうフィードバックをやる時間を取っているのですけれども、そういった仕組み的なものは何かあるのですか。毎月フィードバックをしたり、コーチングをするような時間は取っているのですか。

武井:給与を決め直すのが半年に1回なのですけれども、そのときがそういう場になっています。最近は、それだけだと少しフィードバックが短いから、3カ月に1回、何か間にも入れようかという取り組みが今動いています。でも、それは僕が考えていないのですけれども。

矢萩:自然とですか。

武井:そうです。

畑中:そのほうがいいのではないかという感じですね。

矢萩:そこが違いますよね。

武井:給与は僕は本当にノータッチなのです。

畑中:最終的に「こうしよう。はい、決定」というのは誰かしないのですか。

武井:しないです。意思決定者がいないので「まあ、これかな」という感じで行きます。

畑中:なかなか想像がつきにくいですね。

矢萩:ノーレーティングの場合でも「今こんな感じですから、もっと来月、再来月はこうしましょう」などというのを上司と部下がやったりするのですけれども、上司と部下がいないからそもそもそういうのはないと思うのですけれども、そのときに「今こんな感じだから何々さんはこういう感じの仕事にもっと力を入れたほうがいいよね」とか「何々さんはこうだよね」という形で途中で振り返っていく場はその中でやっているのですか。

武井:そうですね。場を設けるようにも最近していましたけれども、本来、仕事の中でそれがなされている感じですね。というのも、全部、会社の財務情報がオープンで、全員の給料がオープンで、採用も自分たちがチームで勝手にやる。支出もみんなが自由にお金を使うのです。

お金を使うということを自分たち自身で意思決定をしていくと、とにかく経営意識が高まるのですよね。売り上げを立てるよりもお金を使うほうが頭を使うのですよね。そういうところにみんなが日常的に触れ合っているのです。例えば新しい人を採ると、その人が額面で30万円で、何やかんやのコストを含めると40万円で、採用コストで媒体のフィーが60万円で、それでこの事業部で売り上げが幾らで、原価は幾らかかっていて、人件費は幾らでというのをみんなが扱っているのです。

矢萩:それがすごいです。

武井:なので、この人を採用すること自体が自分たちの取り分を削ることにもなります。削ってでも将来的にこの採用は投資として価値があるかどうかということに対して、シビアなので、お互いにフィードバックしてしまうのです。こういうふうにしてほしいというのは言わないと自分の給料が減るし、チームの業績も下がります。

矢萩:ある意味では、みんながそういう意識とそういう計数管理ができるような人になっているということですか。もともとそういう人が入ってきているということなのですか。

武井:全部オープンにしておくと、そういうのができる人とか好きな人が勝手にやりだすという感じですね。やはり一時期は勉強会みたいなものもやったのです。財務諸表をみんなが読めたほうがいいと言って全員を集めて勉強会などをやったのですけれども、寝る人がいたり、集まって熱心にパソコンをカチャカチャとやっているなと思ったら普通にプログラミングをしているとか、俺はそういうのに興味がないから任せるよという人がいて、これは強制できないと思いました。好き嫌いがありますし。

その原理でいくと、僕自身もプログラマーにならないといけないし、前線で営業をしないといけないしということになってしまうので、何か違うなと。それぞれが得意なこととか好きなことをやって補い合えればいいなと。結局、チームのバランスとか部署のバランスが取れていることをすごく大事にしています。

矢萩:そういう意味では、この人を採用するとどれだけのお金がかかるのだとか、この人のためにはどういった仕事の付加価値を出さなければいけないのかというのは、会社だったら上司が教えていって、どのぐらいかかると思っているのだという話になってきますよね。でも、自然とそういう場があってそういうのができていくというのはすごいなと思いました。

畑中:場をつくって、超自立型の組織になっているということなのですかね?

武井:そうですね。

畑中:スタートの4人のときからそうだったということでやっていたのでしょうけれども、今、既存の組織を変えていくというのはすごく難しいなというのは、正直、私は思いました。ゼロからつくっていくほうがまだできるのではないかとは思いました。

武井:それは確かにありますね。