■第1回 脱人事評価?!欧米企業で広がるノーレイティングへのシフトとは?


【ラジオ】 大ちゃんのわくわくワーク!(エフエムこしがや第4月曜日22:30から放送中) 第10回目ゲスト、Microsoft社など、長年、外資系企業に勤められ、シンガポールやオランダでは海外の企業の人事の取り組みに携わられた経験から、最先端の人事制度を研究し、発信するカタパルトスープレックスの中村さんのお話をもとに、今、欧米企業で広がるノーレイティング(年次評価の廃止)についてまとめてみることとする。

◯人事評価をしないノーレイティングとは?

”人事評価自体を変える。簡単に言ってしまうと、スタックランキングといわれていた順番を付ける制度から、そもそも人事評価をしないノーレイティングという制度に変わってきたというのが一つ大きな流れとしてあります。”

今、欧米企業では年次の人事評価によるランク付けを行わないノーレイティングが広がっている。では、なぜそのような流れが広がっているのだろうか?

”人事の流れの一番大きなトレンドは、働いている人が働きやすい環境をつくるというところが一番大きいところにあると思います。”

欧米企業におけるノーレイティングの流れを引っ張っているのは、「働きやすい環境をつくる」という目的がある。(これは働き方改革に取組む今の日本企業にも共通するところだ)

そして、その目的が生まれた背景には、日本と比べても高い離職率にある。今、欧米企業では、いかにして、働きやすい環境を作り、働いている従業員に留まってもらうかということに真面目に取組んでいる企業が増えているのだ。

◯まずは、ネガティブな要素を排除した

では、欧米企業にとって、年次での評価制度のランク付けはどのようなものだったのだろうか?ノーレイティングにすることで、どのような効果を期待しているのだろうか?

”もともとスタックランキングが何で生まれたかといいますと、新陳代謝を高めるために一定の人には出ていってもらわないといけないというところで、優秀な人と優秀ではない人との差をくっきりつけるためにあったのです。ただ、これをやってしまうと部門間で自分の部下を首にしたくない人が当然出てきますので、押し付け合いになるのです。”

”どうしても部門間の争いがそれで発生してしまいますし、評価されるというのは結局ランキングがはっきり分かるわけで、相対評価になるのです。相対評価はなかなか受け入れられない、どうしても満足のいく評価にならないことが多かったので、最終的にどれぐらい給料が上がるのかというのはマネジャーの裁量で判断する、特定のスケールは使わないというのがスタックランキングからノーレイティングへの流れということになります。”

欧米企業と日本とでは、年次評価によるランク付けのあり方に違いがある点には注意が必要だろう。これまでの多くの欧米企業がとってきた年次評価によるランク付けの目的の一つは、「新陳代謝を高める」ことだった。(ここは終身雇用が基本だった日本との違いが大きい)部署ごとに首にしなければならない人数があらかじめ割り振られており、例え、その部署が良い成績を納めたとしても、ランク付けの結果から一定数は首にしなければならないという方法がとられていたのだ。

結果、部署間の軋轢や、働いている人の心理的負担が高まる中で、今、組織運営の中でも重要だと言われているコラボレーションやそこから生まれるイノベーションも生まれづらい状況ができてしまったのだ。そして、これは年次評価によるランク付けという仕組みから生み出されたものであり、これまでの仕組みが課題をうんでいるのであれば、まずはその仕組みをやめようというのが、欧米企業で広がっているノーレイティングへの流れなのだ。(あくまでもノーレイティンは目的ではないのだ)

◯欧米企業がノーレイティングにより実現しようとしていること

一旦、ここまでの話を整理してみる。欧米企業では今、「働きやすい職場づくり」の一環として、「ノーレイティング」を取り入れる企業が増えている。そして、欧米企業がノーレイティングに取組むことで期待している効果は以下のようになる。

①組織のパフォーマンスを上げる
まずは、組織のパフォーマンスを上げるという点だ。組織におけるイノベーションを生むためのコラボレーションの促進、心理的な安心の確保が効果として期待できる。部門間やスタッフ間でのあつれきは会社の空気を悪くする。それは、組織がパフォーマンスを上げていく上で好ましい状況ではなく改善すべき課題に値する。

②モチベーションの向上
(日本における評価制度も同じ課題を抱えているが)人事評価によるランク付けをし評価することによって納得感、満足感を与えることはとても難しいものだ。むしろ、正しく評価されていないと納得感を感じられないことが不満につながっていうケースが多い。人事評価による定期的なフィードバックではなく、必要なときに必要なフィードバックをするという方法にシフトすることでよりスタッフの納得感を高める効果が期待されている。

このように、欧米企業において広がりを見せているノーレティングへの流れは、まずは、深刻な離職問題を解決すべく「働きやすい職場をつくりたい」という思いから生まれた。今の組織経営においてデメリットが大きいと考えられる年次評価によるランク付けはまずはやめようというのが始まりだ。では、年次評価を廃止したことで組織はどのような影響があるのだろうか?(はたして組織はよくなるのだろうか・・)そもそも報酬はどのように決めるのだろうか?次回以降、欧米企業におけるノーレイティングへのシフトについてより深いところを見ていこうと思う。

著者:原田 真吾 /WorldShiftコミュニケーター/