対話型組織開発 ジャルバース・ブッシュ氏来日講演をふりかえり
ODネットワークジャパンの年次大会に出席。基調講演は、対話型組織開発の新刊が話題になっているブッシュ氏の来日公演。
世界でもっとも影響を与えたコンサルタントとして第7位のブッシュ氏の講演。最新の組織開発の実践、理論とはいかに。
大きくまとめると、2つではないかと思う。
1つは、協働のリーダーシップについて
2つ目は、組織の課題にいかに向き合いながら問題を解決していくのか
この2つについてブッシュ氏の考えをまとめ弊社がいまテーマに研究している人事制度と組織開発の融合そして成人発達論の視点からまとめてみたいと思う。
ブッシュ氏は、組織の課題には技術的な課題と適応を要する課題の2つがあるという。技術的課題は、因果関係がはっきりしていたり、専門家や権威者の意見や技術があれば解決できる課題だという。しかし、見通しの効かない予測不能で複雑な時代に問題も同じく複雑になり、その本質から定義づけなくてはならない。
そこには協働というリーダーシップが必要であり、カリスマ的なリーダーが過去の成功体験に基づいて一人で問題を解決できるような時代ではない。
ブッシュ氏は講演のなかで大きな問題は、この適応を要する課題をあたかも技術的な課題を扱うかのように問題を解決しようとすることに課題があるという。
「この社員はなぜいつも同じミスをするのか」
「新しい新規事業がなぜうまくいかないのか」
このような問題を技術的な課題として扱いミスしたことを叱ったり、評価を下げたりしていないだろうか?これらの問題は、適応を要する課題ととらえて組織的に対応するという視点こそが大切なのだ。
こうしてみると、いまの日本の人事制度は技術的課題に対してのアプローチを前提とした人事制度を導入、運用している企業が少なくない。
個人そして組織全体の行動変容を促す方向への人事制度への転換を考えなくてはならない。
ただ、一方で忘れてはならないのすべてが適応を要する課題に対応しなくてはならないビジネスモデルばかりではないということだ。そこには依然として直線的な問題解決が有効だし直接的なリーダーシップが必要であり、いままでの人事制度が有効にはたらくケースも少なくない。
さて成人発達論の視点からはどうだろうか?
適応を要する課題は、抽象的な事柄を扱えるだけの能力と認知の幅が必要でありそのような役割を担うメンバーでないと単純には適応を要する課題を解決するメンバー、リーダーとしての役割は担えないだろうと思われる。
今回のブッシュ氏の対話型組織開発の講演を聴いて感じたことは、人事制度上の等級基準の見直しを図っていく必要がある。
また、その背景には創発、ナラティブ、生成的イメージの3つのプロセスに焦点をあててリーダーは対話を注意深く見守っていく必要があるという点も強くブッシュ氏は言っていたのが印象的だ。リーダーの新し役割のこの3つが大切だといえる。
特にナラティブについて大きく説明の時間を取ったが、人は意味付けをしようとする生き物であるというのが印象的だ。
そして、組織は意味を生成するネットワークであるという。
例えば、社長が正社員主体の組織にダイバーシティを取り入れやろうと動いても、会議では賛成したとしても喫煙所では、どうせそんなことを言ってもうちが非正規社員でできる仕事はないよ!と別の部屋で実際のものごとは動いているということであり、このナラティブに変化を起こす取り組みを設計するのがとくにリーダーには必要とされる。後述するが、午後の分科会での渡辺氏のAIの実践例は大いに参考になった。
さて、生成的なイメージについてだが、リーダーの仕事は農業ににているとブッシュ氏は言う。
新しい言葉の生成はまさに種だ。対話の中で生じてくるそのコミュニティがつくりだした、新しい言葉だ。そして、その言葉を育ててくれるステークホルダーを探し成長を促すプロセスをまわす。これこそがリーダーの役目だという。
弊社でもクレドの作成を行っているがある社長がみなの会社を舞台にした成功体験記を読んで、社員の数だけ会社を通したドラマがあるといってわが社の新しい価値観を生成した。そこからは、その価値観を育て、エネルギーを生み出す生成的な世界観をつくりだし地域貢献企業として立派な会社へとなっているがまさに、この3つのプロセスがうまく回った例といえよう。
さて、協働を促すリーダーシップについてさらに深くブッシュ氏の話を掘り下げてみると、まさにこのナラティブをつねに健全に保つことの必要性を上げている。
部署間の対立や人間関係の対立は些細な思い込みのストーリーから生じる。
一度作ってしまったストリーはそのあと起きることをそのストリーに合わせて解釈して意味づけてしまうという。
わが社が協働が出来ているかを幹部とメンバーにわけてアンケートを取らせると、上司の24パーセントは協働が上手くいっていると判断するが部下は3パーセントしか上手くいっていないという大きな差が生じている。
そこには、先にの述べた、人間の性としての意味付けの行為にもっと目を向ける必要があるということだ。意味付けはまるで、空気や水と同じだからなかなかその変化に気が付かない。
ナラティブの健全性に保つのはリーダーがその変化を注意深く見ていかないといけなく、毎月、毎週メンバーと水の入れ替えをしないと水がモヤモヤで濁ってしまうのだ。
働き方改革の視点からも生産性がクローズアップされているが、そこには、組織内の人間関係のモヤモヤを解消するということが実は、労働時間問題においては大きな改善につながると思われる。
信頼、調整、意思決定の多くは協働のマネジメントの良し悪しで決まるのではないだろうか?
そこがそこなわれれば、生産性はさがる。定期的にモヤモヤの解消が必要だ。そして、働き方改革とともに同一賃金同一労働の議論が進み、人事制度は役割給を目指すことになるが、ヒエラルキーとパートナーシップについてブッシュ氏の話は大きな示唆を与える。
ヒエラルキーは、パートナーシップを阻害するということだ。
いくらその組織がKPIや4半期の目標をわかっていたとしても真の共通目標が肚落ちしていないとパートナーシップは成り立たない。
リーダーがすべての情報を出し見える化をしないと、メンバーはコミットせず、リーダーがすべての目標を決め役割を決め全責任をリーダーが追うことになり社員に割り当てられた役割は受け身となり、自分の割り当てられた役割以上はしないという消極的な役割となる。
しかし、パートナーシップは違う。合意された真の共通目的に対して、自分は自分の為に組織化をはかり自分の役割を達成する。そして自分は周りの為に組織化をはかる。
ここに真のパートナーシップがうまれるのだ。
そして、パートナーシップと人間がもつコントロール欲求について経験の大切さを語っている。
そのキーワードは自己分化だ。各個人個人の経験はその人独自のものでお互いの経験を尊重しあう、認めることから始まるという。
しかしながら、ヒエラルキーのなかでは、同じ経験をしても、正しい経験は誰かとなり、それは、ヒエラルキーの中では上位者の経験こそが正しいとなる。
それでは、組織の中に経験を分かち合いたいという文化は生まれなくなり、パートナーシップはなくなり、メンバーは物事が成功するか否かを上司にに押し付けるようになってしまう。メンバーは、誰もが違った経験をもっていることを理解し、同じ経験を持っている必要はないことを理解し、経験したことをお互い語り合い成長をし学びあうコミュニティをつくることが個人そして組織の成長へとつながることを理解することが大切だという。
人は、他人の経験に介入してその経験を正そうとする性をもっている。一方で変わらない相手に対して不快な思いをしないために関わりを制限するということを無意識に行ってしまう。そのためには、他人の経験や感じることは変えることはできないということを認識することにより不安は解消されていく。
リーダーは、部下の自己分化を促し、パートナーシップを維持できるように不安からの解消を図るようにリーダーとしての権限を使うことはリーダーとしてのあらたな試みだろう。