からだで感じ、学ぶ「体感ES合宿」
毎年夏に、湯河原「ご縁の杜」で開かれる体感ES合宿には、「からだで感じ、学ぶ」ことをテーマに、全国から社労士仲間が集まります。制度や数値目標の裏側にある「人の心」「組織の土壌」を耕すために、共に語り、共に探求する1泊2日の場です。

2日目は、有限会社人事労務の代表、矢萩大輔さんが新しく開発した「組織のAIDAマップ」を体感するワークが行われました。組織が発する「空気」を問いで照らし出し、文化のゆらぎを感じ取りながら未来を描いていく試みです。
ケースを設定してのロールプレイとAIの関わり
守秘義務の関係もあり、実際の顧問先を題材にするのは難しいため、今回は「社会保険労務士法人リンクサポート」という架空の事務所を設定しました。
所長、リーダー、内勤スタッフ、業務委託スタッフ、といった役割を参加者がロールプレイし、「仮想の組織で起きているリアルな葛藤を、演じながら語る」ことで、多様な立場の声を拾っていきます。

このワークの特徴が、役割の違う3種類の生成AIを活用することです。
- 体感ESおとのちゃん:物語やクレドづくりを得意とし、場に温かさをもたらす存在
- AI-β勘ちゃん:参加者の対話を3つの観点から整理・フィードバックする役割
- GOSHIRAKAWAさん:遊び心に満ちた問いを投げかけ、場を揺らす存在

正直に言うと、私は最初AIを人間の対話に入れることに対して懐疑的でした。
個人の内面整理にAIを使うことはあったけれど、組織という場に持ち込んだときに同じように働くのかは未知でした。
「もしかしたら、対話のノイズになるのではないか?」そんな心配もあったのです。
声を拾い、AIに映す
ワークが進む中で、参加者からさまざまな声が出てきます。
「所長には弱音を言えない」
「忙しすぎて余白がない」
「ケアしてくれるのは同僚だけで、上からの配慮は伝わってこない」
そうした言葉をただ流してしまうのではなく、その場でパソコンに打ち込んで、AIに読ませるのが今回の特徴でした。

対話の内容をまとめて送ると、AI-β勘ちゃんからすぐさま「この組織は『やりがいはあるが余裕がない=栄光の砂漠企業』に位置している」という診断が返ってきたのを見た瞬間、会場がざわめきます。「なるほど確かに」という声も聞こえます。
ぼんやりとモヤがかかったような職場の違和感が、一気にリアルな課題として浮かび上がった瞬間でした。
拡散と収束、その間にある余白
問いを重ね、対話を深める中で、場にはモヤモヤや違和感が次々と噴き出していきます。
AIがそれを整理し、フィードバックしてくれるおかげで、単なる不平不満の集まりに終わらず、課題の全体像が見える化されていきました。
会議の場では、意見を広げるのは簡単でも、まとめるのは難しいもの。けれど今回は、AIが触媒となって拡散した声をつなぎ合わせ、最終的に人事制度や仕組みに落とし込む収束のプロセスまで進めることができました。人の力だけで進めていたら二泊三日はかかったであろう作業が、わずか三時間で終えられたのは驚きでした。
そして最後に取り戻したのは「遊ぶ」という余白です。
「今の気持ちをジェスチャーで表してください」とお願いすると、最初はうつむき腕を組んでいた所長役が、最後には両手をYの字のように高く掲げ、笑顔を見せてくれました。

「その心は?」と尋ねると、「最初は社員から不満をぶつけられて落ち込みましたが、解決できる方向が見えたから」との答え。全員で同じポーズを真似したとき、会場にふっと光が差し込むような感覚が広がりました。
その時思い出したのが、合宿中に聞いた「体感とは、同じ体験をして感じること」という言葉です。対話し、悩み、そして感じていることを共有する。そういう体験が、組織という畑を耕すように思えました。
おわりに
今回のワークでは、勘ちゃんが対話を三つの観点から整理し、GOSHIRAKAWAさんが遊び心のある問いを投げかけることで、一方向になりがちな議論に多様な視点が加わりました。
その結果、参加者の言葉が広がり、互いの現実や感覚が響き合う場が生まれていきました。
合宿の最中には「遊びなんて、余裕のある会社だからできるのでは」という声もありました。
けれど私には、余白は無駄ではなく、組織が伸びるための土壌だと感じています。
緊急で重要なことへの対応ばかりに追われる組織は硬直しがちですが、柔らかさや余裕を持つ組織は環境の変化を受け止め、新しい可能性を芽吹かせていけるのです。
コミュニティ経営は、つくり込むものではなく、いつのまにか「そうなっていく」もの。
AIと人が共に問いを持ち続ける営みのなかで、これからの組織の未来が静かに育っていくのだと思います。