新しい人事制度はいかにあるべきか?<カタパルトスープレックス 中村一哉氏インタビュー>


2018年1月22日(月)22時30分放送・エフエムこしがや「大ちゃんのわくわくワーク」にゲストで出演いただくカタパルトスープレックスの中村一哉さんに、”新しい人事制度の方向性とこれからの社長・人事の役割”について、お話を伺いました。

中村さんへの質問は、以下の二つ。

1、社員をランク付けする人事評価から、社員を人事評価しない「ノーレイティング」という人事制度の導入が欧米の先進的企業で進んでいるが、その背景およびこれからの日本ではどのようになるのか?

2、企業のあり方の複雑性・スピード化と現場での判断・権限が委譲される中で、これからの社長・人事の役割はどうなるのか?

まず、最初の質問についてお伺いしました。

欧米の新しい潮流「ノーレイティング」について、海外に長く在住し外資系企業のいわゆるノーレイティングを取り入れる企業でご自身も働いていた経験をお持ちの中村さん。
お話を伺って見えてきたものは、GEやマイクロソフトが行なっていた、社員の格付けによるいわゆる「スタックランキング」による問題です。
欧米の企業は、相対的にS・A・B・C・Dを評価するスタックランキングという制度を取っていました。
それがどのように影響するのかというと、各マネージャーに”D評価を10%”というように割り振っていくことなのです。

しかし、各マネージャーも本当に成績が悪いならばそのように判断しなくてはとなりますが、全員目標を達成した場合にD評価をつけるのはなかなか難しいものです。
そこで、矛先が他部署のメンバーに向かうとなるのです。
また、D評価にされてしまった部下をリストラせねばならない場合に、真っ先にその対象者になってしまうのです。
これまでは、各部門が協調し合うこともまた、部署内の社員も協調するわけもありません。
つまり、ランク付けする以上に協調が大切な時代に、ランク付けする意義や時間等を考えると、ノーレイティングにして、その分のコストや時間をチームや組織全体の協調のために使った方が良いというわけです。
昨今のスピーディで複雑化した時代には、ノーレイティングの導入に舵を切った方が良いというわけです。

ノーレイティングについて、このほかにも一般的に言われていることとしては、
○マネージャーが費やす年次評価関連の時間が、長すぎて非効率感がある。
○時間がかかる割には、個人の成長に効果がないことに加え、従業員間のコラボレーションを阻害する要因になっている。
○目標値を1年サイクルで見ていたのでは、ビジネスのスピードに追従できない。
○上司と部下のコミュニケーションが年度末に集中することで、成長のためのタイムリーなフィードバックができない。
という点もあり、日本の中小企業までも導入を進めていく流れは今後出てくると思われます。

●マネージャーのフィードバックの良し悪しで、部下のやる気やチーム全体の士気に影響する

しかし、中村さんの体験から、ノーレイティングにも問題はあります。
ノーレイティングは、ランク付けを社長や人事がしないかわりに、マネージャーが自己の裁量で評価を行なうというものです。
通常、下記のように、マネージャーがスナップショット、タッチポイントというように今までの年一回・年二回のフィードバック面談と違って頻繁にフィードバックを行ないます。

そこでは、下記の通り、マネージャーが部下と接する上で、評価というよりはコーチング的な要素を強くしていかなくてはなりません。

しかし、スナップショットを全くやらないマネージャーや対話を進められないマネージャーが自分の上司だと、部下のモチベーションやチーム全体の士気は下がってしまい、最悪、退社、チームの廃止もあり得るわけです。
一見、会社全体でのチーム間の協調やチーム同士がつながる体制も、マネージャーの力量しだいというわけです。

●さて、次の質問「社長・人事の役割とこれからの方向性について」考えてみたいと思います。

一つ目の質問でお伝えしたように、部下を評価するという権限をマネージャーに委譲することで人事は必要なくなるのかというとそういうわけではありません。
人事には、新たな仕事が生まれてきます。
それは、マネージャーの対話のトレーニングや、企業の人事情報の見える化、キャリア向上のためのシートやクレド(会社の行動指針)を実践する上での行動目標、社員の行動変容を促すシートなど、マネージャーが部下との対話を推し進めて育成するためのトレーニングやツール、知識を、社長・人事は提供していかなくてはならないのです。

中村さんのお話の中でも、今までフィードバックをしたことがないマネージャーがお金の分配や部下やチームとの士気の上げ方など組織開発については全くの門外漢であったという話がありました。
これはかなり大変な仕事です。
個人のランク付けをする時間を、今はチーム・全社の組織開発に振り分けていく方向性を人事がもつことが大切ということなのです。
●今話題のホラクラシー型組織とノーレイティングの違いについて
最後に、いま話題の「階層のない組織=ホラクラシー型組織」に関し、ノーレイティングとの違いについてお話を伺ってみました。

確かに、ホラクラシー企業は、上司も部下もいないわけですので、人事によるランク付けも必要なくなります。
実際、ザッポスやモーニングスター等の大企業もホラクラシー型経営をやっているという事例がありますが、それは一つの形です。
ノーレイティングにして、”ランク付けはしないが賃金の分配・評価はしていく”という権限をマネージャーの裁量で進めていく。
今回ご紹介した外資系企業の事例と、ホラクラシー型組織とは別で考えて良いでしょう。
その理由の一つは、情報がどこまで公開し見える化しているか、という点です。
残念ながら、ホラクラシー型組織のように見える化・共有化をできる会社は多くはないということです。

今回の話を受けて、中村さんと弊社が共通の知り合いである武井社長のダイヤモンドメディア社のような会社は、逆に一つのモデルだと思いました。
そして、やはり中小企業の方がホラクラシー型組織は実践しやすく、さまざまなクラウドツール等を使って情報の見える化をやりやすくなった今、先進的な企業はノーレイティングでホラクラシー型組織を目指していく、という方向性は確かに出ているのだということを感じた次第です。