ホラクラシー経営の実践-ダイヤモンドメディア武井社長に聴く Vol.3「情報の見える化に活用できるツールとは」
「脱ピラミッド型組織のチームとその働き方」について、ダイヤモンドメディア株式会社 代表取締役 武井浩三さんにお話を伺いました。
(コメンテーター:矢萩大輔 /聞き手:畑中義雄)
三つ目のテーマとして、「組織や人事部門はどのようにツールや持っているデータなどを生かしていくべきなのか」についてお聞きしたいと思います。
畑中:これまでの話の中で、情報をオープンにするという点がありましたが、ツールやデータはまた別のものだと思います。武井社長がツールやデータを有効活用するために使っているものなどがありましたら教えていただきたいです。
武井:ITの会社なので、基本的に新しいものはみんな勝手にがんがん使い始めてしまいます。例えば人事系だったらSmartHRみたいな。業務改善系は絶対にやったほうがいいので、紙からデジタルとかは議論の余地なくやったほうがいいなと思いますし、うちもやっています。会計でマネーフォワードさんのMFクラウドシリーズをうちは全部使っていて、新しいサービスをマネーフォワードさんがつくるときにはうちにヒアリングに来たりするぐらい使い込んでいたりします。
ただ、面白いのが、新しいシステムを導入しやすい仕組みづくりをやっていて、うちの会社は、3カ月に1回、会社の断捨離をするのです。物理的なものもばんばん捨てますし、会社のPLやBSも断捨離するのです。クラウドのデータベースとかもあるのですけれども、Googleのドキュメントとかアプリケーションとかも使わないものをばんばん捨てていきます。
そういう捨てる仕組みがあるので、取りあえずシステムを入れてみようかというのがしやすいのです。これを入れたらどうかとか、ああだこうだとか、では何に影響を及ぼすかという事前の議論を頑張ってするよりも、まず入れてみて何が起こるか。大変だったら途中でやめればいいと。行けたらラッキーということがしやすい風土というか、そういうのはありますね。
基幹系のシステムは僕も何を使っているかは把握していますけれども、エンジニアが使っているツールなどは僕は把握できないぐらいみんな勝手にいろいろなものを使っています。
畑中:今、主にツールの話をしていただいたと思うのですけれども、人事でも新しいツールはどんどん入れていかないといけない時代が来ている。
矢萩:ただ、武井社長のところがどうやっているかは分からないけれども、幾らクラウドでお求め安くなったとしても、それなりの金額がかかるから、そこは結構社長たちもシビアな人はシビアですよね。そもそもそういうのを理解していない社長も多いし、うちなどもそうだけれども、いろいろな会社がデータといってもどう使っていいか分からないし、そもそも計数管理だとか数字が経営者は大体苦手だから、まず毛嫌いしますよね。そこからですよね。
でも、人事の世界で人に関してはデータのHRのテクノロジーの時代になってきているから、これは確実に私はやらなければいけないと思うのです。今回も武井社長がおっしゃったようにうちもマネーフォワードさんをどんどん進めているけれども、現場主義になってくると、階層型とかは別にしても現場の人が人事を扱うというふうになってくるから、そのときにはデータが絶対になってくるし、そこで経営者の人も判断したり見たりして組織の状態がどうなっているのかというのはこれから確実に必要ではないかと思います。
畑中:ツールもそうですし、ツールを使いながらたまっていっているデータですよね。われわれは、データというとすぐ賃金とか労働時間とか残業の時間のデータを思いついてしまうのですけれども、武井社長のところで、特に人事とか、経営全般でもいいのですけれども、こういうデータは結構見ているなとか、社長が見ているなとか、みんなが見ているなというデータは何かありますか。
武井:ITの本質がデータから始まるので。例えばITの発展の仕方は大体一緒で、まずアナログでやっていたことをデジタルにする。そのデジタルでやっている活動をデータベースとして蓄える。そのデータを今度は分析とかをして改善に使う。最後にそれぞれそうやってデータ化されたもの同士をつなぎ合わせて新しいものを生み出す。
そういうつなぎ合わせるというところまでがITの発展の仕方なのですけれども、それを会社の中でもやっていて、SmartHRみたいな人事系のものだったり、契約を結ぶときにはクラウドサインという電子契約のサービスを使っていたり、面接の評価などはいろいろな人がします。うちの会社は適当に面接するのです。適当と言うと語弊がありますけれども、その部署だけではなくて「俺も参加してみたい」とか「誰々さんに見てもらいたい」といろいろな目線で人を見るのです。
畑中:面接というのは社内の人同士の面接ですか。
武井:いや。採用の面接です。採用管理のツールのTalentioというのがあって、それとSmartHRが連動していて、プロセスからそのまま採用に行ってというのが全部自動化していたり、顧客のデータは全部サイボウズのkintoneをカスタマイズして蓄えていて、そこに全部のデータがあって、それとクラウド会計をまたAPIで連携させていて自動的に請求書を発行できるようにしています。
こういうので、それぞれ月々に数千円とか数万円はかかるのですけれども、人を一人雇うよりも全然楽ですし、バックオフィスの人間が自宅でもできるようになるので、楽なのです。一時期は、昔はそれでアルバイトの方が2人ぐらいいたような仕事が今はアルバイトなしで全部自動的に回ってしまう状況になっています。
矢萩:そこは、一応は「何を買うよ」などは見ているのですか。予算というのは別にないという話でしたけれども。
武井:そうですね。経営計画も予算も稟議もないので、基本的に少額であればみんな好き勝手に買います。この前も、先週かな、会社に行ったら、いきなりルンバが買ってありました。
畑中:それは誰かがルンバがあったほうがいいと。みんながそう思うだろうというか。
武井:そうです。ルンバの一番いいものを買ってあって、え?と。僕は掃除が結構好きなので、いつもダイソンで。会社にダイソンがあるのです。ダイソンでガーガーとやっていたのですけれども。
畑中:ではダイソンはどうなるのですか。
武井:ダイソン対ルンバです。僕の仕事が一個なくなってしまった。
畑中:それは一歩先に進んでいるのですね。
武井:それは笑い話ですけれども、大きいものを判断するときには複数の目で行ったほうがいいではないですか。それはみんな分かっていて、そういうのを相談する場がネット上にあるのです。社内SNSだったり、チャットツールを活用しています。
データは、大きくIT業界の目線で分類すると、定量的な数値化できる情報と数値化できない定性的な情報。こちらは言い換えればコミュニケーションの情報なのですけれども、これをネット上で会社の中でつくるのはすごく重要だと感じています。
Slackとかチャットワークというツールを使うのですけれども、相談というグループがあって、全員がそこに入っていて「こういうのを買おうと思うのだけれども、どう思う?」と。つい先週にあったのだと「会社の音楽を自動でずっとかけたいからこういうのを入れようと思うのだけれども、どう思う?」と言ったら「僕はいつも会社でかかっているブラックミュージックが嫌だからジャズとかがいいです」と。ブラックミュージックは僕が流しているものなのです。本当かよと思いました。
畑中:普通の会社だと、社長が流しているものに「僕は嫌です」となかなか言えないですね。
武井:「僕もブラックミュージックが駄目なのです」と2票も来たという。そうしたら、別の人が「そもそもUSENみたいなところが出しているiPadと連携したものがありますよ」とか「月々3,000円ぐらいですよ」と来ました。でも、そうすると音楽をどうするのかとかスピーカーを買い替えるかとどんどん広がっていて、これはオフィスを引っ越したほうが早いのではないかという話になって、結局、収拾がつかなかったので何も買っていないという状況になりました。
みんなで、わあわあと言うのです。特にこだわりがない人は何も言わない。任せますと。それが結構重要で、任せることができるようになるし、そうすると後で「俺は聞いていないけれども」「誰々が勝手にやった」というのが起こらなくなるので、自然と合意形成しやすいというか。
畑中:そのプロセスはすごく重要だし、いいなと思います。
ちょっと視点を変えてデータというところなのですけれども、例えば武井社長のところでこうやっていて、それがまた2年3年と蓄積されていくわけですよね。そうしたら、提案を出している人は実はこの人が多いねというデータとかも残っていくかもしれないですね。
ここは矢萩先生にこれからの見通しみたいなものも聞いてみたいのですけれども、いろいろなデータを人事的にどう使うことがこれから予想されるのか。今の武井社長の話を聞いていると、何でもデータに残そうと思ったらデータ化されて、ビッグデータまでは行かなかったとしても、社内のチャット一つとっても、Aさんは1年間で50回提案している、Bさんは提案に対して25回反対しているとか、なかなか人事はデータに結び付かないことが多いのですけれども、賃金とか以外のところでもあれだと思うのですけれども、人事のデータは今後はこうなるのではないかというような。
矢萩:最近、日立さんなどがやっていますけれども、例えば自然とその人の血圧だとかのデータを取れるような。個人情報にもなるのでしょうけれども。あと、その人がセンサーを付けて、誰と一番会話をしているのだとか対話をしているのだとか、そういうのはほとんどノーストレスでできます。でも「これからこういうデータを集めますから、皆さん、ここに書いてください」というのは結構ストレスがかかるし、続かないではないですか。自然と自分たちがSNSに投稿していたり、またはメールを出していたり、そういったのが自然とデータの価値として出てくるようなものを組織の中で見つけてくるのは大事なのではないかと思います。
そもそも課題があってデータを取りに行くので、課題が一体何なのかというところをまず組織の中である程度まで把握していかないといけません。その中で、こういうデータを取ったらいいのではないか、ああいうデータを取ったらいいのではないかと。でもデータを取るときにいちいち全部アンケートを取ってやっていると非現実的です。
そのときに、今、畑中さんが言ったような形で何回ぐらいやっているのかなというのは今は回数ぐらいだったらいろいろな形で取ることができるわけですし、自分がテキストで打ち込んだものなどもテキストマイニングをかければある程度出てくるようにもなっていますし、そういうような形の中で自然とデータが取れるような形にしていくのは課題になって、必要なことかもしれませんね。
畑中:多様な働き方になればなるほど客観的なものが欲しいという気持ちにはなるのです。武井社長は、その辺りのところは?今のは全然違うかもしれないですけれども。
武井:人事とかそういう観点から考えると、そもそも他人を評価しない、レーティングしないという、うちの給料の決め方は相場に委ねる形なので、そもそもあまりデータがなくても機能できてしまう側面が結構あるのが一つです。
あと、うちもいろいろなシステムが好きな会社で、自分たちがシステムをつくっているぐらいなので、例えばアクティビティ・ベースド・マネジメントのように、労働時間というか、仕事の内容を30分ごとぐらいでどのカテゴリーでというのを分けて分析していた時期もあったのです。どの事業部の会議に何時間の時間を割いていて、移動時間にどのくらいでとか。
それが見えると結構面白いといえば面白いですし、プロフィット業務とノンプロフィット業務に分けて「ノンプロフィット業務に人が入り過ぎだよね。こちらに移そうか」というのをやったこともあったのですけれども、先ほど矢萩さんがおっしゃっていたように運用がとても大変なのです。ずっと取り続けるのはほとんど不可能ですし、その精度が正しいのかどうかとか人によって測り方が違うというのは、本当にカメラで撮って行動を全部分析するしか。
でも、アクティビティ・ベースドで、アクティビティなので、脳みそで考えていることは測れないのです。結構、特にうちの仕事はコンサルティングというか、システムをつくるという手を動かす以外の仕事がいっぱいあって、脳みその中身を時間換算とか分析はできないので、脳内チップが開発されるまでは無理だと諦めました。それで相互評価に委ねています。
そうすると、一緒に仕事をしている人は、例えば、チャットだったり、アナログでもいいのですけれども、この人はいろいろな提案をしてくれるけれども質が低いとか、この人はあまり言わないけれども質が高いとか、定量的な評価だけで下せないものがあるではないですか。先ほどの価値の話ではないですけれども、そういうふうに場に委ねたほうが実は精度が高いのではないかと感じています。