テレワークではじめる新しい働き方


「はじめに」

2019年4月から、時間外労働時間の上限を原則月45時間、年360時間とする「時間外労働時間の上限規制」、年10日以上の年次有給休暇が付与されるすべての従業員に対して毎年5日、時季を指定して有給休暇を与える必要がある「有給休暇の時期指定」、などいわゆる働き方改革関連法が施行されます。
時間外労働時間の上限を設けるなどの労働時間に関連する法律は、働き過ぎを防ぎながら、ワーク・ライフ・バランスと多様で柔軟な働き方の実現に向けて改正されるものです。その中の、「柔軟な働き方」の一つにテレワークがあります。

「テレワーク」とは

テレワークは働き方改革の方法のひとつで、情報通信技術(ICT)を活用し、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方のことです。 「テレ(Tele)=離れたところで」と「ワーク(Work)=働く」を合わせた造語です。
テレワークには、「在宅勤務」「モバイルワーク」「サテライトオフィス勤務(施設利用型勤務)」の3つの形態があります。育児・介護等を行う一部の従業員のみに対する施策ではなく、会社全体の働き方を改革するための施策の1つとして期待されています。

在宅勤務は、会社に出勤しないで自宅を就業場所とする勤務形態です。従業員の自宅で仕事を行うため、通勤時間、お客さまへの訪問時間が軽減されるなど、時間を有効に使うことができます。
モバイルワークは、移動中の電車内や外出先などを就業場所とする勤務形態です。会社に戻って仕事を行う必要がなくなるため、外出の多い営業職などの社員の時間を有効に使うことができます。
サテライトオフィスは、会社以外の施設を就業場所とする勤務形態です。「シェアオフィス」や「コワーキングスペース」などの共用型と、自社で専用に使用する施設を設置するなどの専用型があります。

総務省が平成27年度に実施した14,880人を対象とした調査において、テレワーク形態別のニーズをみると、全体では在宅勤務の意向が最も高く23.6%、モバイルワークは12.1%、サテライトオフィス勤務は9.7%となっています(総務省「平成27年度 テレワークモデルの普及促進に向けた調査研究」)

テレワーク制度導入による効果として、以下のようなメリットがあります。
・従業員の育児や介護による離職を防ぐ。
・隙間時間や移動時間を活用し、生産性を上げることができる。
・ワーク・ライフ・バランスの向上を図ることができる。
・災害時に事業を継続しやすくする。
・遠隔地の優秀な人材を雇用する。

※2011年3月の東日本大震災発生時に、テレワーク(在宅勤務)を導入していた企業は素早く事業を再開できたという事例も報告されています。非常時に速やかにテレワークが実施できるように、日頃からテレワークという働き方に慣れておくことが重要になります。

テレワーク導入のプロセス

テレワーク導入の大まかなプロセスは以下の通りです。

① 全体方針を決める
導入のイメージを把握する。導入の目的を明確にする。基本方針を決める。

② ルールを作る
テレワークの対象者を決める。労務管理規程等の確認や見直しを行う。セキュリティ対策をする。

③ テレワーク導入のための教育・研修を行う
テレワークの目的と必要性を理解する。社内規程や実施の流れを理解する。

④ テレワークを実施する

⑤ テレワーク推進のための評価と改善を行う
テレワーク実施による効果や課題を把握する。推進のための改善を行う。

この中の②「ルールを作る」について補足します。
②-① テレワークの対象者
会社全体の働き方を改革するために、希望するすべての従業員が、業務の種類にかかわらず実施できることが理想ですが、初めて導入するときには、業務内容や社員の状況(育児や介護)を踏まえて対象者を決めることが良いでしょう。対象者の選定に当たっては、関係者の理解を得られるよう、明確な基準を設けることが重要です。

②-② 労務管理規程等の確認や見直し
テレワーク勤務においても、労働基準法・労働安全衛生法・労働者災害補償保険法などの労働基準関係法令が適用されます。初めて導入するときには、テレワーク時の労務管理規程等について確認や見直しを行いましょう。テレワークに関する定めについては、就業規則に直接規定するか、新たに「テレワーク勤務規程」などを作成することになりますが、新たに規程を作成した方がわかりやすいと思います。
「テレワーク勤務規程」に規定する事項としては、テレワーク勤務の定義、テレワークの対象者、テレワーク勤務の服務規律・労働時間・費用負担・災害補償・安全衛生などがあります。

②-③ テレワーク勤務時の労働時間制度と労働時間管理
在宅勤務を行う場合でも、労働時間の算定が可能な場合は、原則、通常の労働時間制(1日8時間、週40時間)が適用されます。一方、労働時間の算定が難しい場合に、以下の3つの要件をすべて満たした場合は、事業場外みなし労働時間制を適用することができます。
a.業務が自宅で行われること
b.情報通信機器が使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと
→回線が接続されているだけで、在宅勤務者が情報通信機器から自由に離れることができる状態です。
c.業務が随時使用者の具体的な指示に基づいて行われていないこと。
→業務の目的、目標、期限等の基本的事項を指示することは、具体的な指示に当たりません。

事業場外みなし労働時間制は、労働時間の算定方法について特例を認めている制度です。就業規則に事業場外みなし労働時間制に関する規定がない場合には、就業規則を変更する必要があるなど、新たに導入する場合には注意すべき点が多くあります。できるだけ労働時間を把握して通常の労働時間制を適用し、どうしても労働時間の算定が困難な場合に事業場外みなし労働時間制を適用する方が良いでしょう。

②-④ テレワーク勤務時の安全衛生
労働安全衛生法では、テレワークを行う労働者も含め、常時使用する労働者に対しては、雇入時の安全衛生教育の実施や雇入時及び定期の健康診断の実施、長時間労働者に対する面接指導等が義務付けられています。働く場所が従業員の自宅となる在宅勤務は、プライバシーに配慮した作業環境に関するルールを作り、これに従って作業環境を整えるようテレワーク勤務者と話し合うことが必要です。

②-⑤ テレワーク勤務時の費用負担
在宅勤務においては、情報通信機器、通信費、事務用品・郵送料等の費用、水道光熱費の費用が新たに発生します。あらかじめ労使で十分に話し合い、会社負担か個人負担かを項目毎に決めておくことが必要です。

テレワーク制度導入研修

それではここで、2019年1月からテレワーク勤務を実施する会社を紹介します。
従業員55名のサービス業の会社で、働き方の多様性の促進を図ることを目的に、今回のテレワーク勤務を導入することになりました。

勤務形態は、会社に勤務しないで従業員の自宅を就業場所とする在宅勤務。対象者は、本人の希望や家族の理解の適正性に加え、経験や業務の理解度を踏まえ勤続年数や等級の条件をすべて満たした者と規定し、最初のテレワーク勤務者は5名の管理者となりました。

導入にあたり、5名の管理者を対象にテレワーク制度導入研修を行いました。

(1) テレワークの目的と必要性について
テレワークの概要として、3つの勤務形態の違いや、育児や介護による離職者を予防できる、通勤時間を働く時間に変えられるなどの導入による効果やメリットを学びました。また、テレワークは国全体で取り組んでおり、導入により良い影響が出ることが期待できること、今回の取り組みがモデルケースになり得ることの話がありました。

(2)テレワークの働き方について
在宅勤務の注意事項は服務規律に定めていること、業務に関わる報告・連絡・相談方法や体制を定めていること、テレワーク規程の内容を学びました。また、管理監督者が在宅勤務をする場合であっても、過重労働防止や安全配慮義務の観点から労働時間を把握する必要があること、業務に起因していることが認められた場合は業務中のケガが労災適用になること、健やかな良い状態で仕事に向き合える環境を作る必要があることの話がありました。

(3)テレワークの実施に向けて
テレワークでは、会社から離れた場所にいるテレワーク社員とコミュニケーションを取ることになります。必要な時にコミュニケーションを取ることができ、業務内容の報告・共有をすることができれば、テレワーク社員だけではなく会社の社員のストレスの軽減になります。テレワークを実施するうえで、会社の社員とテレワーク社員とのコミュニケーションがとても重要となること、コミュニケーションがより深まる流れを会社全体で考えていく必要があることを学びました。

(4)テレワーク実施による効果について
テレワーク制度をより良い制度にするためには、実施による効果を把握することが重要になります。残業時間が減少したか、社員一人当たりの売上が向上したかなどの「生産性の向上」、家族と過ごす時間が確保できているか、有給休暇の取得率が向上したかなど「ワーク・ライフ・バランスの向上」などで、効果を把握することを学びました。

(5)テレワーク実施による課題について
テレワーク実施により、比較的簡単に解決できる課題、複雑で一筋縄ではいかない課題など、さまざまな課題が見えてきます。なかには、社員の成長や組織全体が改善されないと解決できないケースも出てくるでしょう。生じた課題に対して、色々な立場や視点を持つこと、社員みんなで向き合い、自分たちがどのようにに成長するかを考えることから、色々な解決策が見えてくるかもしれないことを学びました。

(6)受講者からの意見
現場が見えない不安、今まで近くで見ていたことでできていたことがテレワークでどこまでできるのか、テレワーク勤務者を良く思わない社員が出るのではないか、仕事量の判断基準が難しい、テレワークに対する組織風土の問題、などさまざまな懸念事項が出されました。

最後に

「柔軟な働き方」の一つであるテレワーク。現在はスマートフォンやタブレット端末等の情報通信機器が発達し、クラウド型の勤怠管理や会議室などテレワークを導入する環境が飛躍的に変化しています。これは大企業に限らず、中小企業においてもテレワークを導入しやすい環境になっていると言えるでしょう。
人材の確保や育成は、現在多くの会社の課題となっています。テレワーク導入より、育児や介護による離職を防ぐとともに、人材を育成し続けることができます。また、社員は仕事や会社に対する満足度が向上することでしょう。社員の満足度が上がれば、社員のパフォーマンスが上がり、結果として会社の業績が上がることも期待できます。
平成26年度のテレワークの実施頻度に関するアンケートでは、約6割の企業で4~9回/月以下という結果が出ています。それほど多くない回数でも、社員は育児・介護の時間創出や通勤ストレスの軽減、会社は生産性向上や社員満足度の向上など、導入の効果が表れています。また、テレワークは、非常時に事業を継続することを可能にしますので、非常時に備えて制度を導入し、日頃からテレワークという働き方に慣れておくことも良いのではないでしょうか。
新たな取り組みは、業務の在り方や組織の在り方などを見直すきっかけにもなり、より良い「働き方と働く場」づくりに繋がります。テレワークは、これからの時代の新しい働くかたちになるのではないでしょうか。