多様な時代に会社が重視すべき社員のBeing


2020年、日本のみならず世界中で「働き方」が激変しています。いうまでもなく、新型コロナの影響なのですが、実は新型コロナ以前の数年間で、静かにその変化の予兆は表れていたように思います。単純労働は次々にシステムやAI、そしてギグワーカーなどの業務委託に置き換わり、「労働者」が行うべき仕事はどんどん少なくなっていっています。一方で労働者は働く場所や時間の選択肢が急激に増え、自分の趣向やライフスタイルに合わせた働き方もできるようになりつつあります。

このような流れが逆戻りすることは考えらません。社員は、今後より複雑で予想のつかない(正解のない)仕事に対して、組織の方針を理解しつつ自ら考え、仲間を巻き込みつつ対応していくことが求められます。社長や上司が答えを知っているという仕事がどんどんなくなっていくのです。

これまでの組織の人事制度において、例えば目標管理やコンピテンシーなどを活用することはかなり効果がありました。目標管理は上司と部下で面談を行い、今期の達成すべき目標を会社目標に沿って設定します。その目標を達成するために部下は1年間活動し、上司はこれを支援します。しかし、これからは立てた目標が1年間(もしくは半年間)も目標であり続けることのほうが少なくなるでしょう。1年後の目標などを具体的に立てることが不可能になってきているのです。

また、コンピテンシーでは、業績の高い社員の行動特性を抽出し、その特性を他のメンバーも実施することで全体のレベルをあげようというものです。これも、職務内容が皆同じで、そのプロセスが変化しない環境なら効果はありました。しかし、今は一人ひとり担当する職務は多様で、しかもそのプロセスも常に変化が起こります。「業績を必ず出す行動特性」を抽出すること自体が難しくなっているのです。

もちろん、今後も、職種、仕事の内容や本人の等級などによっては、これからも有効な手法である場合も当然あります。例えば、入社から3年以内の新人を育成、評価する場合はどちらも有効な手法でしょう。しかし、ある程度、職業経験をつんで、複雑な業務にたずさわるようになると、このような定型的な評価は限界がくるでしょう。

では、会社は社員のどのような点に注目し、評価すべきなのでしょうか。これからはBeingといわれる、その社員の「あり方」(意識・思い・人生哲学・視座など)を会社はもっとも意識すべきです。

人間が仕事で成果をだすには、いわゆるDoingが必要です。具体的に動き、能力を発揮し、自分の役割を果たし、結果をだして組織に貢献する行動です。ただ、この具体的な行動をするためには、その行動のベースとなるKnowingが必要です。Knowingとは、行動するために必要な、過去の経験や身に着けている知識のことです。当然ですが、ある仕事をするためには、それに必要な知識や経験なしに成果をだすことはできません。

よりレベルの高い成果をだすためには、よりレベルの高いKnowingが必要なのです。しかし、ひたすらKnowingを高めていけば、より大きなDoingを生み出せるのでしょうか?そうではなりません。Doing、Knowingの下には、そのベースとなるBeingが存在するのです。本人の人間的な「あり方」です。

Beingの一つの指標に「視座」があります。今日や明日のことしか考えずに仕事をしている人が、成し遂げることができる仕事は、限られるでしょう。世の中にいいインパクトを与えるような業績をあげるリーダーは、自分個人のことよりも、組織全体はもとより、地域や社会全体にとって何が最も良いことかという広い視野で行動しています。この人間的な成長がないまま、Doing、Knowingだけを伸ばそうとしても、ベース(Being)が狭ければその上にあるDoing、Knowingを高めることはできません。これは逆三角形や長方形になることはないのです。

これからの組織は、そこに所属しているメンバーのBeingをしっかりと把握し、その高まりに応じた役割を与えていくべきです。また、Beingいかにして高めていくか、その経験と気づきの成長の場をどのようにつくっていくかを重視すべきなのです。