デジタル・ガバメントの歩みと企業のイノベーション~企業の人事・労務担当者として理解しておきたいこと~


令和元年5月31日公布、令和2年1月7日施行した「デジタル手続法」(情報通信技術の活用による行政手続等に係る関係者の利便性の向上並びに行政運営の簡素化及び効率化を図るための行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律等の一部を改正する法律)その他関連改正が実務に大きな影響を与えている。

やれ電子申請義務化だ、マイナンバーカードがどうした、と実務に携わる人たちにとって混乱必至なお題である。この機会に整理してみよう。そもそも今回の改正はどのような背景で行われたのか。

「デジタル手続法」では「行政のデジタル化に関する基本原則などを定める」とともに「行政のデジタル化を推進するために、各個の施策を講じ」るようにとされている。すなわちデジタル・ガバメント(電子政府)成立に向けた動きだ。
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/hourei/digital.html(首相官邸HPより)

今回の改正では、「行政手続オンライン化法」(行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律)を改名した「デジタル行政推進法」(情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律)の改正、「住民基本台帳法」の改正、「公的個人認証法」の改正、「マイナンバー法」の改正がされている。なんとも幅広い法改正だ。

「デジタル手続法」の基本原則は、「国、地方公共団体、民間事業者、国民その他の者があらゆる活動において情報通信技術の便益を享受できる社会の実現」のために、

①デジタルファースト:個々の手続・サービスが一貫してデジタルで完結する
②ワンスオンリー:一度提出した情報は、二度提出することを不要とする
③コネクテッド・ワンストップ:民間サービスを含め、複数の手続・サービスをワンストップで実現する

ことである。

こと社会保険実務においても、行政手続の利便性向上や、行政運営の簡素化・効率化のために、情報通信技術を活用して、「行政手続のオンライン原則」や「添付書類の撤廃」等が国を挙げて推し進められていく見込みだ。

この点、令和元年5月31日に発表された、「行政手続オンライン化法」に基づく「平成29年度棚卸結果」において、オンライン化の法令上の可否についての検討、(例えば雇用保険法に基づく日雇労働求職者給付金の失業の認定に係る手続、日雇労働者求職者給付金の特例の申出の手続が、「法令上オンライン化適用除外」であるなど)や、各省庁約8700もの行政手続のオンライン化状況についてが検討・報告(実施済1841手続・実施予定156手続)されている。
https://www.mhlw.go.jp/shinsei_boshu/denshiseihu/jujo29.html (厚労省HPより)

デジタル・ガバメントに向けた取り組みはこれだけではない。令和元年6月14日「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」に関する閣議決定では、「個人のライフイベント」のみならず、「従業員のライフイベントに伴い企業が行う社会保険・税手続についてマイナポータルのAPIを活用したオンライン・ワンストップ化を令和2年11月頃から開始し、順次、対象手続を拡大する」予定であるとされている。

繰り返しになるが、行政手続のオンライン化及びワンストップ化の利点は、主にコスト削減と効率化である。

手続のワンストップ化に先駆けて、すでにオンライン化された手続についての一歩進んでその電子申請を義務化する動きがある。政府全体の行政コスト削減が目的、利用促進を図り、行政負担軽減を狙う目論見だ。
雇用保険法施行規則の一部を改正する省令(平31.3.8 厚労令19)により、一部の企業について、下記一覧(厚労省リーフレットより抜粋)の手続について電子申請により行うことが義務化される。施行日は令和2年4月1日とのこと。

詳細は下記URLより、
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000160564_00004.html (厚労省HP)

このような試みを通じて、マイナンバーを起点に、社会保険・労働保険の分野においてもデジタル技術を徹底的に活用して情報の一元化と情報利活用を行い、社会課題の解決(ひいてはデジタル・ガバメントの実現)を図ろうとするのが中長期的な目標だ。

この動きを見ていると、国のデジタル・ガバメント成立に向けた取り組みの要はマイナンバーカードの「普及」と「利活用体制の整備・拡充」にあるということが分かる。

企業担当者視点でこの動きを鳥瞰すると、
この構図は、ちょうど企業のイノベーション促進、効率化に向けた「情報の見える化」、「一元化された情報の利活用」(データアナリシス、AI導入)の気風とパラレルにとらえることができる。

国(Society5.0)も企業(HR Tech)も、データ収集の内製化、活用方法の模索が昨今の潮流であるといえる。

デジタル・ガバメントの動向として追記すると、6月4日のデジタル・ガバメント閣僚会議より取りまとめられた「マイナンバーカードの普及とマイナンバーの利活用の促進に関する方針」を基に、令和3年3月を目標に、マイナンバーカードが健康保険証としての利用できるようになる予定だ。マイナンバーカードの公的個人認証機能を活用してマイナンバーカードを健康保険証として利用することにより、診療時における確実な本人確認と保険資格確認が可能になるよう準備が進められている。
https://www.cao.go.jp/bangouseido/pdf/leaf2019_hokensho.pdf (厚労省リーフレット)

デジタル・ガバメント(電子政府)の推進の末、深刻な「デジタル・デバイド」(利用者間の情報技術格差)が生じているだろう。それは国も懸念しており対策が進められているところだが、個人レベル・企業担当者レベルでの高いデジタルリテラシ―を求められることは間違いないだろう。

同様に、HRTechに取り組みたいと思っている企業と実際に運用する社員を取り巻く環境も同様の苦難にさらされる可能性は多いにある。どんなサービスを使って情報を一元化するか、どんな取り組みをして情報を活用していくか。コツコツと理解を求める謙虚な姿勢の努力が一層求められる。