組織開発とはES(人間性尊重)経営


アメリカの組織心理学者であるエドガー・シャイン博士は、組織開発について以下のように定義しています。

”個々人の一連の組織の中の行動を
企業の望ましい目的達成のために
個人と組織の相反するベクトルを合わせていく為の
組織のプロセスを個々の組織に合わせてデザインする一連の取り組み”
(エドガー・シャイン)

注目したいのは、「個人と組織は相反する関係にある」という前提に立っているという点です。そして、この相反するもの同士を一つにしていくためのデザインでありプロセスが組織開発なのだと博士は言いました。

これは、機械的なカタチで動くトップダウンから成り立つ組織の秩序から、まるで一つの生命体として自然とそこに秩序が生まれるような生命体としての組織を目指すことを意味するのではないかと考えています。
今、私たちが目指そうとしている自律分散型の組織を実現させるためにも、まずは、「私たちは異なる同士である」という前提に立ったうえで、ばらばらに存在するベクトルの中に「つながり」をデザインし、一つにしていくことが必要なのではないかと考えています。

「人間の本質」と「人間性の尊重(ES)」

では、自律分散型の組織を実現するためのデザインはどのように進めれば良いのでしょうか?

まずは個人のベクトルがどこを向いているのかを知ることが重要です。そのためには、組織と異なるベクトルをもつ個人にはどのような特徴(本質)があるのかを知ることが一つの手がかりになります。
生命論から考える人間の本質に、「自己保存」があります。これは、自らの命を守るという生物として生きていくための強い本能です。

さらに、命の危険というだけでなく、自らの身体や心を守るという行動も自己保存という本質からくる行動であると言えます。誰もが、痛い思いはしたくないし、嫌な思いもしたくない、考えてみれば当然の気持ちですが、これが人間の本質としてある自己保存の法則です。

ここで、人間の本質に照らし合わせた組織のあり方を考えてみると、「組織のために人間がいるのではない」ということが大切なポイントになってきます。
個人にとって、「その会社(組織)に属することにメリットがある」、「自分の欲求を満たすことができる」と感じられるからこそ、個人は本能に従った状態で組織に属することができるのです。

そして、この個人の人間としての本質を満たせるということは、個人個人の人間性を尊重するということでもありESが目指す組織のありかたであると言えるでしょう。

「貢献感」を感じられる職場

人間の本質としてもう一つ注目したいのが、「種の保存」という本質です。生き物は、自分の命を守るだけでは、種の命を存続させることができないので、仲間との関わり方に対する欲求も持っているのです。

これは、「コミュニティに対して貢献したい」という欲求であるとも言えるでしょう。
障がい者雇用の取り組みで先進的な取り組みを行っている日本理化学研究所では、7割を超えるスタッフが障がいを持ちながら働いています。

「障がい者の方は国からの補助があるから働かなくてもよいのではないか?」
という質問に対して、大山会長は人間の喜びには3つあると言っています。

一つ目は、人からしてもらう世話になる喜び
二つ目は、何かを自分でやって、達成する喜び
そして三つ目は、誰かのために貢献してありがとうと言われる喜び です。

そして3つの喜びの中でも、3つ目の喜びが最高の喜びであると大山会長は言っています。
障がいを持つ方は3つ目の喜び、誰かのために貢献して感謝される喜びを感じずに生涯を過ごす方が多い。だから、働く喜び、人から感謝される喜びを提供する場として、障がいを持つ方が働ける環境づくりに力を入れたいという思いで大山会長は取り組みを継続されてきました。

そして、働くことを通して得られる貢献感を求めているのは、障がいを持つ方だけではありません。種の保存という人間の本質として「誰かに貢献して感謝されたい」という思いを、私たちは誰もが持っているのです。

そして、この欲求を満たしていくためには「貢献感」を感じられる職場を作っていく必要があります。個人が持つ「貢献したい」というベクトルを満たすことのできる職場を目指すことは、スタッフに最高の喜びを与える組織を目指すことでもあると言えます。

「4つの視点」からデザインする

 では、具体的にはどのように、個人と組織の異なるベクトルを合わせえていけばよいのでしょうか?

例えば、上司に相談したのに相手にされないような状態では、「自己保存の法則」「種の保存の法則」の両方に反していると言えます。
発言することで恥をかいたり嫌な思いをする状態では自分の身と心を守ろうとする本能が働き、積極的なかかわりを避けるようになるためコミュニケーション不全につながってしまいます。
また、職場のメンバーとの関係性が悪いことは、コミュニティに対して貢献したいという気持ちを失わせ、貢献感を感じる機会も減少させてしまいます。

このように個人と組織のベクトルが相反した状態から、ベクトルを一つにまとめていくためのデザイン方法(施策)をまとめていくと、以下に示すように「4つの視点」からの働きかけにまとめることができます。

①戦略的働きかけ

課題:現代の競合的な環境の中で,将来どのような製品やサービスをどのような市場に提供していき、どのように優位に立っていくか?

施策:組織デザイン/統合的ストラテジック・プランニング/組織文化・風土の変革

/学習する組織/合併/提携/オープンイノベーション/コミュニティづくり など

②人材マネジメントによる働きかけ

課題:人々のモチベーションを高める為にどのように目標を設定するか、どのように報酬を与えるか、どのように人々のキャリアを発達させるか?

施策:目標設定/ 業績評価/ 報酬制度/ コーチングやメンタリング/ リーダーシップ開発/π型人材の養成/ キャリアデザイン/ ダイバーシティマネジメント/ メンタルヘルス対策 など

③ヒューマンプロセスへの働きかけ

課題:人々の間で起こるプロセス、例えば、コミュニケーション、意思決定、リーダーシップ、関わり方、グループ・ダイナミックス上の諸問題

施策:クレボリューションプログラム/プロセス・コンサルテーション/第三者介入/ チームビルディング/ コンフロンテーション・ミーティング(問題を顕在化し、直視して、問題解決まで率直に述べあう会議)/ グループ間介入/ ラージグループ介入(フューチャーサーチ等)など 

④構造・技術的働きかけ

課題:仕事をどのように分け(部署や部門などの組織構造の構成)、部署間をどのように調整するか、仕事をどのように進めるか? 

施策:構造デザイン/ダウンサイジング/リエンジニアリング/QC活動/TQM

/ ワークデザイン/ 自己管理型チーム など 

はじめに紹介したエドガー・シャイン博士の組織開発の定義にあったように、組織開発の取り組みは、「個々の組織に合わせてデザイン」を実施していくことになります。ですから、どの視点からの取り組みに力を入れるのか、またどの施策を行っていくべきなのかは組織の状態により変わってきます。

しかし、組織開発の根本にあるのは人間の本質を知り、それを満たす環境を作っていくことです。「組織のために人間がある」のではなく「人間のために組織がある」ということを、今一度、強く再認識することで、その組織が必要とする取り組みが必ず見えてきます。

従業員一人一人が持つ欲求にはどのようなものがあるかを知り、寄り添い、満たしていくことで、人間性を尊重する経営が実現されるとともに、スタッフ一人一人が主体的に働くことができる自律分散型の組織が実現できるのです。