従業員数が50人になると変わる義務は?障害者法定雇用率・ストレスチェック・定期健康診断


従業員の人数が増えると、たしかめておくべき制度も増えるもの。今回は労働衛生分野で、押さえておきたいポイントをまとめました。

障害者法定雇用率の引き上げ

2021年3月1日から障害者の法定雇用率が引き上げられ、法定雇用率が下記のとおり変更になりました。

【法定雇用率】


今回の法定雇用率の変更に伴い、障害者を雇用しなければ民間企業の対象となる事業主の範囲も、従業員45.5人以上から43.5人以上へ変更になりました。

法定雇用率を定め、法定雇用率を達成できない企業(常時労働者100人超)から納付金を徴収して、法定雇用率を達成した企業に対しては調整金・報奨金といった支給金が支払われます。納付金の余剰分は雇用支援の助成金として活用されます。

ただし、法定雇用率を達成できない企業から徴収される障害者雇用納付金は、100人以下の中小企業から現行では徴収されていません。100人超える企業から障害者雇用納付金を徴収しています。不足1人あたり月額5万円となります。

このように障害者雇用納付金制度が、障碍者雇用支援の中核になっているのです。

【障害者雇用納付金制度のしくみ1】

【障害者雇用納付金制度のしくみ2】

障害者雇用率の報告義務がある企業は?

常時従業員43.5人以上の企業は、毎年6月1日に障害者雇用率をハローワークに報告する義務があります。これは『六一(ロクイチ)報告』とも呼ばれます。

法定雇用率の改定に伴い、障害者雇用納付金を算定するときの取り扱いに注意が必要です。

2020年度分の障害者雇用納付金

・2021年2月以前については法定雇用率2.2%で算定する
・2021年3月以降については法定雇用率2.3%で算定する

2021年度分の障害者雇用納付金

・2021年3月以降と同様に法定雇用率2.3%で算定する

ストレスチェックの義務化

仕事や職場に対して強い不安・ストレス・悩みを感じて働いている労働者は増加傾向にあり、問題視されています。放置しておくと、仕事による心理的負荷により精神疾患を発症するケースや自殺するケースがあり、労災認定がされる案件が増えています。2015年には労働安全衛生法の改正により、職場におけるストレスチェックの義務化が実現しました。

ストレスチェック義務化の対象となる企業規模

ストレスチェックの実施義務があるのは常時50人以上を使用する事業所です。1年1回以上ストレスチェックを行うことが義務付けられています。

50人未満の事業所はストレスチェックの実施が努力義務になっています。

【ストレスチェックの対象労働者】

ストレスチェックは結果を提出する義務もある

ストレスチェックを実施後、「心理的負担の程度を把握するための検査結果等報告書」を所轄の労働基準監督署へ提出しなければなりません。「心理的負担の程度を把握するための検査結果等報告書」を提出しなかった場合は罰則規定の対象となりますので注意が必要です。ただし、常時50人未満の事業所には、報告書の提出義務や罰則の適用はありません。

【心理的負担の程度を把握するための検査結果等報告書の提出と罰則】

ストレスチェック受けることは労働者の義務ではない

常時50人以上を使用する事業所にストレスチェックを義務付けていますが、ストレスチェックを受けることは労働者に義務付けていませんので注意が必要です。ストレスチェックを強制することができないため、ストレスチェックを拒否する権利が与えられています。

事業主としてはストレスチェックの効果や重要性を伝えて、受診を促すことは可能です。

ストレスチェックを拒否したことを理由に解雇や減給の制裁など、労働者に対する不利益な取り扱いはできないので注意しましょう。

定期健康診断結果報告書の提出

事業主は労働者に対して健康診断を受診させることが労働安全衛生法で義務付けられています。健康診断の結果によっては、医師の意見を聴いて就業場所の変更、配置転換、深夜業の回数を減少させるなど必要な措置をとるのに必要なものです。

定期健康診断の項目

定期健康診断は常時使用する労働者に対して1年以内に1回、定期健康診断の項目について健康診断を行います。定期健康診断の項目は下記を参照してください。

【定期健康診断項目】

(1)既往歴及び業務歴の調査
(2)自覚・他覚症状(医師の検査で判明する症状)の有無
(3)身長(※)、体重、胸囲(※)、視力・聴力の検査
(4)胸部エックス線検査(※)・喀痰検査(※)
(5)血圧の測定
(6)貧血検査(血色素量及び赤血球数) (※)
(7)肝機能検査(GOT、GPT、γ-GTP)(※)
(8)血中脂質検査(LDLコレステロール、HDLコレステロール、血清トリグリセライド)(※)
(9)血糖検査(空腹時血糖、2018年4月から随時血糖検査が追加あり) (※)
(10)尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無の検査)
(11)心電図検査(※)

(※)が付いている項目については、医師の判断で省略することも可能です

定期健康診断の費用は誰が負担する?

定期健康診断の費用は原則として事業主が負担します。定期健康診断の実施が労働安全衛生法、労働安全衛生法規則などによって定められた事業主の義務であるからです。

定期健康診断の時間に賃金支払い義務はある?

定期健康診断の場合、業務に関連するものとはいえないとされているため、事業主に賃金支払義務はない、就業時間扱いとはならないとされています。しかし、就業時間中に事業所外で健康診断を受けていることが現実です。健康診断を受けている時間を賃金カットすると業務が円滑に進まず、健康診断を受診しない労働者も増える可能性があります。このため、厚生労働省は、労使間で協議の上、就業時間中に健康診断を実施し、事業主は受診に要した時間に対する賃金を支払うことが望ましいという見解を示しています。

定期健康診断の結果保存が必要

事業主は定期健康診断の結果に基づいて『健康診断個人票』を作成して、5年間の保存義務があります。

定期健康診断報告書は届出が必要

常時50人以上の労働者を使用している事業所では、定期健康診断を実施したときは『定期健康診断結果報告書』を提出しなければなりません。

定期健康診断を受けさせなかった場合、罰則は?

事業主が労働者に健康診断を受けさせなかった場合、50万円以下の罰金が科せられることがありますので注意が必要です。

【定期健康診断結果保存作成・報告書提出・罰則】


執筆者:中井尊明 投稿日(2021.06.11)