高年齢者雇用安定法の改正


みなさん、こんにちは!有限会社人事・労務の西田です。

ご存じの通り、日本は少子高齢化が急速に進展し人口が減少する傾向にあります。そんな中で働く意欲がある高年齢者がその能力を十分に発揮できるよう、高年齢者が活躍できる環境の整備を目的として、今年の4月から高年齢雇用安定法が改正され、70歳までの就業確保措置を講じることが「努力義務」となります。

あくまで努力義務でありますので、措置を講じなくても罰則等があるわけではありませんが、法律により各企業に努力を求めることになります。

具体的には、次の①~⑤のいずれかの措置を講じるように努めることが必要となります。

①70歳までの定年引上げ
②定年制の廃止
③70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入
④70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
⑤70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入

 a.事業主が自ら実施する社会貢献事業
b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業

現在は、原則65歳までの雇用確保が義務になっており、65歳までの定年制度や継続雇用制度、もしくは定年制度を設けない措置を導入する必要がありますが、今後は70歳までの定年制度や継続雇用制度、もしくは定年制度を努めるようにしなければなりません。また、今回は雇用以外の措置として、70歳までの業務委託制度および70歳までの社会貢献事業に従事できる制度も対象となります。

【現行と新設措置の違い】

一般的には、①から③の措置の導入を努めることが多いかと思いますが、④と⑤の「創業支援等措置」を努めることも可能です。ただし、「雇用」ではなくなりますので、制度導入に当たっては、計画を作成して、その計画について労働者の過半数を代表する労働組合がある場合にはその労働組合、労働者の過半数を代表する労働組合がない場合には労働者の過半数を代表する者の同意が必要です。

また、⑤の「社会貢献事業」とは、不特定かつ多数の者の利益に資することを目的とした事業のことであり、実際に「社会貢献事業」に該当するかどうかは、事業の性質や内容等を勘案して個別に判断されることになります。

このように、努力義務とはいえ、70歳までの就業を各社検討する必要が出てきていますが、気になるのは対象者に対する給与水準かと思います。給与制度を考えずに70歳まで賃金を右肩あがり、あるいは横ばいのまま雇用をすることは、会社の経営を圧迫することもあり得ます。

 下記の図を見ると、60歳到達時に賃金を減額する会社は300人未満の企業だと74.2%にものぼり、その場合の賃金減額後の支給率は減額前と比較して60~69%が39.5%が最も多く、50%~69%に減額する割合が全体の6割弱にあたることが分かります。

今回の法改正による努力義務も、おそらく最も多い対応が、70歳までの継続雇用制度になるかと思います。例えば定年制度は60歳のままで、上記のような賃金減額を行った上で70歳まで後続雇用制度を導入するということも可能です。

【60歳到達時に賃金を減額する場合における減額後の支給率】

「高年齢者の処遇に関する実態調査」労務行政研究所 2019年8月~10月調査実施 

ただし、昨年10月の名古屋地裁の判決では、定年後再雇用された労働者が同じ仕事なのに賃金を減額したことに対して「業務内容や責任の程度に違いがないのに、賃金総額が定年時の60%を下回る部分は違法」とされた判決もありますので、賃金を減額する場合には、業務内容や役割の責任度合いを変更したり、労使で協議して決めることが必要になります。

(2021.1.18執筆)