失敗ができる組織をどれだけつくれるのか<宇田川元一先生×矢萩大輔 対談②>
<有限会社人事・労務 設立20周年記念セミナー基調講演より>
矢萩:
今、宇田川先生が言ったところはすごく勉強になると思うのです。
「弱いつながりと強いつながりがある」という話がありました。そこでイノベーションが起きてくるのではないか、と。
弱いつながりの部分が今どうなっているのかは常にモニタリングをしていく必要があるのかなと思っています。
ある会社で、弊社の組織診断ソフト「人財士」のようなツールで組織風土を見ていくことになりました。
例えば生産性がどのぐらい上がっているのかなと。会社の中でいろいろな施策を取っていた過去のある年との比較で、その施策が実際に組織風土の中でどういうふうにリアルに生産性に結び付いているのかなんていうのを見ていくわけです。今のままでいいのか、それとも黄色信号が灯っているのかと。
まさにHRテクノロジーの時代ですから、そういったものをどんどん組織の中にトライ・アンド・エラーしながらも取り入れていくところを、われわれ社会保険労務士はもっともっとやっていかなければいけないのではないか、と思っているのです。
宇田川先生:
トライ・アンド・エラーは本当に大事ですね。
例えば今、Amazonは「ドローンで宅配」といった試みをしています。これができると、例えば、みんなでバーベキューに行きましょうとなったら、手ぶらで行けるわけです。バーベキューピットぐらいは持っていくかもしれないけれども、何人来たから肉は何人分といって、スマホで注文すると、GPSで、びーっと飛んでくるわけです。
そんな時代が来るのです。それは、多分、あと7~8年で来る可能性があります。
以前には、全然聞いたこともないような企業が、聞いたこともないようなデバイスやサービスを使って、今までにないサービスをつくる時代になっていくわけです。
そういうのはどうやってできてきているのかといったら、度重なる実験と失敗の積み重ねで出てくるということなわけです。
その意味で、失敗ができる組織をどれだけつくれるのかというのは本当に大事です。
どうやったらいいという正解なんかは分からないのだけれども、まずは実践してみないことには何も変わりません。勿論、じっくり考えることは大事ですが、実践がなければ何も生みだされません。しかし、やってみて駄目だったら一緒に考えましょうか、という世界に今変わってきているわけです。
ノーベル賞の研究とかでもそうですけれども、失敗しない実験は駄目なのです。
100%成功している実験は何にも新しくないということなんですよ。
本当に今出てきた新しいテクノロジーでもいいですし、新しい考え方でもいいのですけれども、まず実験してみる。
それの結果をみんなで眺めて、考えていくというのが大事なんです。実験してみてうまくいかなかったことの犯人捜しをしては絶対に駄目なのです。
失敗するに決まっているのですから。新しいことをやっているのだから。
そうではなくて、これは面白い結果が出たという感じで、みんなで眺めて、次は何をやるかというところが出せて、そういうことができる組織をつくっていくことが大事だと思います。
■今、どういう状況なのか? ちゃんと話し合える組織をつくる
矢萩:
今、働き方改革の流れが強まっています。
効率化と生産性を高めた結果、何をやるかというと、今、宇田川先生が言ったようなところのコミュニケーションだとか対話とかそういう時間を持っていくべきではないかと思います。組織の状態を常にモニタリングできるような時間です。
私と宇田川さんの共通の友人であるダイヤモンドメディア社の武井社長が、まさに不動産の関係をやっているそういう人が、われわれの社会保険労務士の分野である人事コンサルをこれからやっていこうという話をしていますよね。全く全然違うところから来るわけです。
今までは、社会保険労務士同士で「どうしよう。こうしよう。」とやっていた。
でも、そこに中小企業診断士の先生がやってきたり、税理士の先生が人事の分野に入ってきたり、今は企業の社長さんが違う分野の中で人事のコンサルをやっていくという時代になっているわけです。
そういった意味では、われわれの戦略も変えていかなければいけない。
組織は戦略を実現するための一つの道具なわけではないですか。
先ほど宇田川さんが言っていたピラミッド型の組織がうまくいっていた時代もあれば、そうではない時代になってきた中で、イノベーションを実現するためのツールとしてどのように組織をつくっていくのかというのはすごく大切だし、そのツールがうまく回っているかどうかをモニタリングしていくためにHRテクノロジーをいかに使っていくのかはとても大切になってくるのかなと思うのです。
宇田川先生:
法律なり人事制度なり組織のデザインなり、そういったものは制度と呼ばれますが、これらはそれができた当時にはその当時なりの意味があったわけです。コンテキストがあって制度は意味があったわけです。階層型組織もそれが必要だった時代には意味があるものだったけれども、状況が変わっているのだったら違うやり方に変える必要があるでしょう。逆に言えば、状況が大きく変わっていないのであれば、無理に変える必要はありません。また、階層型でなければいい、というような単純な話でもありません。
変えることは目的ではなく手段でしかなくて、それよりも遥かに大事なことは、「今がどういう状況か」ということをちゃんと話し合って、必要なことを行える組織をつくっていくことです。
それをどうやって実践していくのか。
様々な組織では、現場ではまずいのではないかと思っても、上の人が分かってくれない、というような問題が起きてきて、結局、何も変わらない。逆の問題もあります。現場の人も上の人がわかってくれないと嘆くだけでなくて、上の人達をもっと文脈を含めて理解したり、フォローするようなことも必要でしょう。そうしたことが互いに出来ていれば、気がついたら階層関係というのは組織においてあまり重要ではないものに変わっていきます。
しかし、こうしたことへのひたむきな取り組みがあまりなされていないように思います。その結果として、1%しかGDPが上がらなかったというような状況が生まれているのだろうと思うわけです。
ビジョンに即していれば何でも言える関係を組織の中でいかにつくれるか、ということを考えていかないといけないし、逆に、そうでない組織は多分働く人から選ばれなくなっていくというのが、一方では別の現実としてあるのではないかと思います。