体感!ES組織開発実践講座 オープンセミナー「生成AIを活用した未来の組織づくり ~革新的な職場デザインへのアプローチ」レポート【後編】自己生成価値と他者触発価値 – AIがもたらす新たな組織の形


前回、生成AIがもたらす学習方法の革新について見てきました。今回はセミナーの中で用いられた3つの概念について、詳しく解説します。

( 【前編】生成AIが組織づくりにもたらす可能性▼ )

田原氏は、働く価値を「機能価値」「自己生成価値」「他者触発価値」の3つに分類することを提案しました。

「機能価値」は従来の組織において最も重視されてきた価値です。これは、組織の目的や計画に沿って個々の役割を果たすことを指します。外的生産性を重視し、対価としての報酬を得るための価値と言えます。

一方、「自己生成価値」と「他者触発価値」は、より内的で創造的な価値を指します。「自己生成価値」は、仕事を通じて自分自身を理解し、成長させていく過程で生まれる価値です。自分らしく働くことで、自分の能力や特性を発見し、自己理解を深めていくプロセスを指します。

「他者触発価値」は、自己生成価値と密接に関連しています。自分らしく生きる人の存在が、周囲の人々に影響を与え、彼らも自分らしく生きる勇気を与えるという価値です。これは、組織内での相互作用や影響力を重視する概念です。

田原氏は、これらの価値が従来の組織では分断されがちだったことを指摘しています。多くの従業員は、仕事では機能価値のみを求められ、自己生成価値や他者触発価値を発揮する機会が限られていたというわけです。

しかし、生成AIの登場により、この状況が大きく変わる可能性があります。AIを活用することで、個々のメンバーが自由に学び、成長する機会が増えます。そして、その学びや成長の過程を組織内で共有することで、互いに刺激し合い、組織全体の創造性を高めることができるのです。

田原氏は、このプロセスについて次のように述べています。

「AIを使えば世界中の実践的な取り組みをすぐに調べることができます。一人ひとりが自分の興味関心のある分野でいろいろなものを見つけてきて、読みながら分解して理解していく。そのログをDiscordなどで共有していくと、いろいろな人がさまざまな視点から学習していることがわかります。一人ひとりの興味関心から学んでいることが相互に共有されていくことで、そのコミュニティにすごい知が蓄積されていきます。しかも日本語空間に限りません。
インプットが変われば考える内容も変わってくるわけです。そうすると多分アイデアが爆発します。インプットが限定された中で、イノベーションを起こそうと思っても難しいのですが、集合知が膨大な量になることで、毎日考えが溢れて目が覚めてしまうというサイクルが回ってくるはずです」

このような学びの共有、「共創ラーニング」が進むことで、組織のメンバー全員が豊富な知識と多様な視点を持つようになります。そうなると、意思決定の過程も変わってきます。トップダウンではなく、メンバー全員の知識と視点を活かした包括的な意思決定が可能になるのです。

このような組織では、個々のメンバーの学びが直接意思決定に活かされるため、仕事へのモチベーションも高まります。自分の貢献が組織の発展に直結していることを実感できるからです。

さらに、このような学びと成長の循環は、組織の境界を超えて広がっていく可能性があります。AIの助けを借りて多言語の文献を読むことで、組織は世界中の知識や視点を取り入れ、よりイノベーティブな活動を展開できるようになるでしょう。

生成AIの登場は、単に業務の効率化をもたらすだけでなく、組織のあり方そのものを変革する可能性を秘めています。個々のメンバーの自己実現と組織の目標達成が両立する、新たな形の組織づくりが可能になるかもしれません。

これからの組織づくりにおいては、AIを活用しながら、いかに「自己生成価値」「他者触発価値」「機能価値」のバランスを取っていくかが重要な課題となるはずです。従来の効率性や生産性だけでなく、個人の成長と組織の創造性を同時に追求する新しい組織モデルの構築が求められています。

生成AIの登場により、私たちは学びと成長の新たなステージに立っています。この変革の波を、単なる業務効率化の手段としてではなく、組織と個人の可能性を最大限に引き出すチャンスとして捉えることが重要です。AIと人間が互いの長所を活かし合い、創造性と生産性の両立を図る。そんな新しい組織の形を、私たち一人ひとりが主体的に築いていく時代が始まっているのです。