独占禁止法の適用で労働市場はどう変わる?


「米司法省が、Googleを独占禁止法違反で提訴」

そんなニュースから再び話題となりました。

これまで、“独占禁止法は一般法、労働法は特別法”として労働法が優先されると考えられてきました。※1 もし、独占禁止法(独禁法)が適用された場合、労働市場はどう変わるのでしょうか?

働き方改革がうたわれるなかで、2018年2月15日、公正取引委員会は「労働分野に独禁法を適用する」とし、将来のさらなる働き方の多様化に備える姿勢を示しました。“会社 対 個人事業者”の関係にも、独禁法を適用することで、個人事業者を保護しようというものです。

この公正取引委員会が公表した“労働分野に独禁法を適用するための運用指針”を踏まえ、将来のさらなる働き方の多様化へと備えていきましょう。

公正取引委員会が示す、独禁法違反「優越的地位の濫用」とは?

公正取引委員会は、企業が“秘密保持契約”を盾に競合他社との契約を過度に制限したり、イラストやソフトなどの成果物に必要以上に利用制限や転用制限をかけたりすれば、“優越的地位の濫用”にあたる恐れがあると指摘。複数の同業他社間で賃金の上昇を防ぐために“互いに人材の引き抜きはしない”と申し合わせればカルテル(※2)として摘発するとしています。

そこで今回は、独禁法の中でも“優越的地位の濫用”へ焦点を当て解説するとともに、独禁法に反した場合の効果についてご説明します。

優越的地位の認定に当たっては、以下の4つのポイントを考慮し、発注者Aと受注者Bの取引上の関係で、相対的にAがBに対して優越的な地位にあるかが問題となります。

・発注者Aとの取引に、受注者Bがどの程度依存しているか。

・受注者Bが受注先を発注者Aから他の発注者に変更する可能性がどの程度あるか。

・発注者Aが、市場においてどのよう地位を占めているか。

・その他の受注者Bが発注者Aと取引する必要性

上記に沿って、優越的地位が認められるような場合、規制対象となりうる行為として、以下が考えられます。

・発注を取り消したり、取引商品の受領を拒否したりすること

・一度受領した成果物を返品すること

・役務の提供等を受けた後に、役務の提供等をやり直させること

・対価の支払いを遅延すること

・取引の対価を減額すること

・対価を一方的に設定すること

・経済上の利益の提供を要請すること

・取引対象商品役務以外の商品役務を購入するよう要請すること

「優越的な地位にあるかどうか」 よくある疑問例

上記で挙げた例のうち、なかでも分かりづらいものについてピックアップして解説します。

・「役務の提供等を受けた後に、役務の提供等をやり直させること」とは?

一度納入した成果物に関して、発注者から修正の指示を受けたことを理由に、元請けがA下請けBに対して、追加費用を負担せずに、Bに修正作業を行わせることなどが考えられます。

・「対価を一方的に設定すること」とは?

発注者Aが、受注者Bから受けた役務や商品の対価を一方的に著しく低額に定める行為が典型例です。

新規にフリーランスと取引を始める際に、取引対象となる商品・役務の需給関係や、他のフリーランスに対する対価設定と比べたときに、差別的な価格設定が一方的にされたかどうかを考慮して、合理的範囲で価格設定がされていないと判断される場合には、「一方的な価格設定」に該当する恐れがあります。

また、納期が短い発注により、受注者Bの人件費等のコストが大幅に増加しているにもかかわらず、通常の発注と同一の対価を定めることも、実質的には、一方的に対価を著しく低額に定めることと変わりなく、“一方的な価格設定”として、独禁法の規制対象となりうるものです。

・「経済上の利益の提供を要請すること」とは?

システム開発などの何らかの知的財産権が生じうることを委託した場合に、納品時において、無償で、それらの知的財産権を発注者が取得することとしている場合などが考えられます。

これらの行為が「正常な商慣習に照らして不当」である「公正な競争を阻害すること=自由競争の基盤を侵害すること」と判断された場合、規制対象となります。

まとめ

冒頭にあげたGoogleの話題に戻りますと、Google社が“検索”を支配していることは間違いないでしょう、一種の優越的地位が認められます。

ですが、2020年現在、テクノロジーを支配しているのは1社ではなく、以前に独禁法違反として話題にあがったMicrosoft社を含む、複数の大手テクノロジー企業であり、これらの企業は連携し事業運営をしている側面もあります。それが、あたかも1つの会社であるかのように協働しているのです。

公正取引委員会の姿勢は、会社“VS”個人事業者の関係を想定し、独禁法を適用することで個人事業者を保護しようというものですが、次代は、会社“&”個人事業主、そして上述した独禁法の性質を踏まえたうえで、互いを尊重する”協働”の姿勢で、多様な働く力を活かした事業運営を先んじて行っていきましょう。

※1 一般法は広くに適用される法律で、特別法は範囲が特定されている法律を差し、一般法と特別法の双方が存在している範囲においては、特別法が優先されます
※2 企業や事業者が独占目的で行う協定で、独占禁止法で禁止されている

執筆:2020.11

矢尾板 初美
有限会社人事・労務 パートナー行政書士
903シティファーム推進協議会 委員長
明治学院大学国際学部を卒業後、総合物流会社を経て、行政書士として独立。開業以来、物流業に関するご依頼を受ける他、大手電気通信企業が展開する働き方改革PJの事務局サポートや多様な法人の設立支援を行っている。はたらくカタチが多様化する近年は、業務委託契約書やテレワーク規程等の作成の他、クラウドシステムやRPA等HR Techの最適化による給与計算や労務手続きの自動化等、業務の生産性向上そして組織のDX向上を支援している。また、自らも、師事している矢萩ともに、903シティファーム推進協議会を起ち上げ、「田心カフェ」を運営する等、“共感”を軸とした組織の可能性と運営課題を実感するとともに、非営利組織の事務局サポートメニューを展開し、多様な個の集うコミュニティ創りをサポートしている。