高齢者雇用と同一労働同一賃金


こんにちは。有限会社人事・労務の髙橋です。

本日は高年齢者雇用についての動向と同一労働同一賃金制度との関係について触れます。
2019年に政府により70歳までの雇用機会確保を努力義務化する法整備の方針が示されました。具体的にどのような方法で70歳までの継続雇用を行うか、まず触れていきたいと思います。

・高年齢者雇用安定法改正への動向
現行法では、定年を延長したり、定年後希望者を再雇用するなど方法を講じ、希望者全員を65歳まで雇用継続することが義務付けられています。
この現行制度はそのままに、少子高齢化に伴う働き手不足解消のため、法改正で70歳までの継続雇用を促していこうという動きが出ており、まずは第1段階として70歳までの継続雇用を努力義務として設ける動向となっています。
70歳までの雇用継続方法として以下の7つの方法が検討されています。
①定年を廃止
②70歳まで定年延長
③再雇用制度の用意
④他の企業(子会社・関連会社以外)への再就職の実現
⑤個人とのフリーランス契約への資金提供
⑥個人の起業支援
⑦個人の社会活動参加への資金提供
    

・同一労働同一賃金との関係
実際にどの方法を設けて雇用継続を行うかは、各企業の判断により決定されるものです。現状、多くの会社では定年制度自体はそのままに、定年後再雇用を行うことで雇用継続を行う企業が多数派です。
ただし、例えば定年後有期雇用労働者として再雇用を行うといったようなケースで特に注意が必要なのは、同一労働同一賃金制度との関係です。企業が定年延長ではなく、有期雇用労働者として再雇用をする選択を行う背景としては、正社員としては一度区切ることで人件費を抑えたいという理由もあるかと思います。
しかし、同一労働同一賃金制度は雇用形態の違いのみを理由として賃金などの待遇に差を設けることを許容しません。例えば、正社員と有期雇用労働者が全く同じ働き方、同じ責任を担っていたら、同一の待遇でなければならないのです。

具体的には、その職員の①職務の内容(業務内容及び責任の程度)、②職務の内容、配置の変更の範囲を通常の労働者と比較し、均等待遇を求められているのか、均衡待遇を求められているのか検討していく必要があります。

均等待遇であれば通常の労働者と全く同じ取扱いをしなければならず、均衡待遇であれば各社員の働き方に応じた合理的な待遇差でなければなりません。

では、均衡待遇の場合、どこまでの待遇差であれば「合理的な待遇差」として許容されるのか。働き方には、もちろん様々な形があり、今後ますます多様な働き方が出てくるでしょう。一律にこの基準、というものはありませんが、どのような点を注意しなければならないのか、実際の判例をご紹介いたします。

◎長澤運輸事件最高裁判決
【事件の概要】
 60歳で定年退職した後に、被告との間で1年間の有期労働契約を締結して嘱託社員として再雇用された原告ら3名が、無期労働契約の正社員との間の賃金格差(平均して、正社員より21%減)は不合理であるとして、本件有期労働契約による賃金の定めが労働契約法第20条に違反し無効であると主張した。

【裁判所の判断】
「本件相違は、労働者の職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情に照らして不合理なものであるということはできず、労働契約法第20条に違反するとは認められない」とした。
不法行為(民法709条)の成否については、「控訴人が、被控訴人らと有期労働契約を締結し、定年前と同一の職務に従事させながら、賃金額を20ないし24パーセント程度切り下げたことが社会的に相当性を欠くとはいえず、労働契約法又は公序良俗(民法90条)に反し違法であるとは認められず、原告らに対する不法行為は成立しないとされた。
ただし、精勤手当については、差異を設けていることを労働契約法に違反すると判断しました。

長くなっておりますので詳細は割愛致しますが、トヨタ自動車事件(名古屋高裁H28.9.28判決)、九州総菜事件(福岡高裁H29.9.7判決)についても少しだけご紹介いたします。

・トヨタ自動車事件:会社には労働条件についての裁量があるとはいえ、労働者が容認できないような低額の給与水準や職務内容の提示をすることは高年法の趣旨に違反し、認められない。
・九州総菜事件:定年前の労働条件と再雇用後の労働条件の間に継続性・連続性が欠ける場合は、その変更に合理的な理由が存在しなければならない 。本件では、従前の約25%まで減額するためには、合理的な理由が必要であるとした。極端な下げ幅は容易には認められない。

再雇用後の労働条件の変更はできますが、あまりに大幅に労働条件を変更する場合は、なぜ変更するのかという点に合理的な説明ができる理由が求められます。会社に労働条件に関する裁量はあれど、一定の制約は課されるということです。

そのようなトラブルを未然に防ぐためにも、事前に定年後にどのようなキャリアコースが用意されているのかを周知して、労使間の合意形成を築いておくことが肝要かと思います。