行動観察の目を養う 徳武産業の例


 

行動観察の目を養うことが、これからとても大切になってくるのではないでしょうか。

徳武産業という、行動観察に優れた会社があります。

この会社は靴の製造会社ですが、普通の靴ではなく、靴を片足だけ売ることで有名な会社なのです。

まさに、競合と戦わない会社。

元々は、普通に靴を製造し販売していましたが、ある時「片足だけのシューズでも売ってくれませんか」と、高齢者施設から相談があり、「高齢者の方が転倒しづらいシューズをつくれないか」という発想から、この分野に進出をしてきました。

また、施設で暮らす寝たきりのおばあさんから「かわいいピンクの靴がほしいんだけど」という連絡があり、普通はそこで「はいわかりましたではこの靴作ります、はい作り上げました納品しました」で終わるところ、「あれ、なんで寝たきりなのに靴がほしいのかな」と、こういう風に非常に疑問を持ったそうです。

この「疑問を持つ」ということがポイントです。

疑問におもったので、連絡をくれたおばあさんに話を聞くために、施設までいくと、おばあさんは「かわいいピンクの靴をもう一度履きたいんだよ」と、治療に励む理由を得ようとしていたわけです。おばあさんは、ピンクの靴を履きたい一心で頑張り、後日施設の人から連絡があって「おばあちゃん、あのピンクの靴を履いて歩かれたんですよ!」と、このようなエピソードが生まれてきました。

徳武社長はもともと、「高齢者だから地味な靴を作ればいいんだ」と、どこかそのように思っていたそうです。しかし、このおばあさんとの出会いがあって、「明るい色・軽い・転倒しない機能性・リーズナブルな価格」こういった靴を作ってみたいと思うようになりました。ここから、顧客に寄り添う力が、これからの会社にとって大切になってくると学ぶことができます。

顧客に寄り添う場を設ける、顧客に寄り添って創造的に観察する、そしてそこから生まれる豊富なエピソードからイノベーションが起きる。

エピソードの数がどれだけあるかが、つまりはその会社のイノベーションが生まれるということです。

では、そういったエピソードを話し合って共有していますか?

徳武産業は普通の靴を売ることはやめ、「片足だけの靴を売る靴屋さん」になりました。これからのビジネスは、顧客に寄り添うことが大切。そのためには、事業領域を絞り込むことが大切です。

 

今、二つ石を持っているとして、目の前に池が二つありこれを事業領域と考えます。一つの石がマーケティングの影響力とし、この石をまず池に落とします。すると、波紋が広がります。そうすると、もう一つの石も、「どうするかな、よしもう一つの分野にこのマーケティングの石を投げちゃおうかな」と考えてしまいがちです。

でも、これからは違います。「キャズム」という考え方で、一つの池に投げた後に、もう一つの石も、同じ小さい池に投げる。まさにニッチの分野に投げ続けることが大事です。

そうすることによって、波紋が大きく広がります。これからは小さな池の大きな世界になっていく、ということを理解することが大切です。