アフターコロナの人事制度① 「ジョブ型雇用」主流の中で、新たな「コミュニティ型社員」が生まれる?


(有)人事・労務 社会保険労務士の畑中です。
「アフターコロナ」という言葉がはやり始めていますが、私はやや違和感を持っています。というのも、「これでコロナは終息して、ここから先は元の生活にもどりますよ!」という時は絶対にこないと思うからです。今回、世界的な危機となり、社会のしくみがグローバル規模で変わりつつあります。一度変わってしまったことはそう簡単には元に戻りません。さらに言えば、本来変わるべき時期に来ていて変わりきれていなかったものが、このタイミングで一気に変わることも多いでしょう。そのような場合、当然「元に戻る意味がない」「今のほうがいい」「変わってよかった」ということでそのまま継続されていくでしょう。
 働き方でいえば、あきらかにテレワークは定着するでしょう。「なんだ、会社に行かなくても仕事できるじゃないか」と思った人は多いはずです。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200508-00171669-bcn-sci&fbclid=IwAR2GXRluF7IPWem-4b3yuXJXEEvUetaytPwMjyTV8gu1fHcEaejX8ABB2rk

 営業や会議もオンラインが主流となってくるため、具体的な必要性がなければわざわざ人と会わない、人が集まらない、ということになっていくのではないでしょうか。それであれば、そもそも会社にはオフィスはいらなくて、仮想空間の中だけで仕事はできるようになってくるのかもしれません。

 会社という組織は多くの社員が集まって成り立っています。よく言われることですが、組織の雇用形態は大きく分けると、欧米の(日本以外の多くの諸外国がそうだと思うのですが)「ジョブ型雇用」と日本が長くとりいれてきた「メンバーシップ型雇用」に分類されます。簡単にいえば、ジョブ型は「今ある仕事に人をつける」つまり、職務給的な考え方がベースです。それに対してメンバーシップ型は「人を成長させて、仕事をつけていく」ということをやります。結果として、メンバーシップ型のほうが長期安定雇用となり、解雇などができにくいしくみとなります。

 企業側から見て、一般的に言われているそれぞれのメリットとデメリットは以下のとおりです。

●ジョブ型雇用
メリット
・必要な人材をタイムリーに採用でき、ミスマッチが生じにくい
・スキルや成果で給与が決まるため、給与設定がわかりやすく、不要な人材をかかえることになりにくい。また、その時の市場価値に応じた給与額の設定をしやすい。
・賃金が年功的になりにくい。(基本的に職務給となるため)
・欠員がでた場合や必要性が生じた時の中途採用が比較的容易(職務が明確なため)
・万が一の事業撤退時などは、人員調整が比較的容易(もちろん解雇は難しいが、それでも職務限定社員や期間限定であれば通常の正社員よりも容易であると考えられる)
・スキルのあるものを採用するため、比較的教育コストがかからない。
・職務が限定されるため、社員が仕事に対してプロ意識を持ちやすい

デメリット
・新卒者、若者の採用が難しくなる
・会社内でのキャリアップを社員に描かせるのが難しい
・優秀な社員の給与が高騰しがち。また常に転職されてしまうリスクがある。
・契約にない仕事や残業を依頼しにくい。
・異動や職務変更を命ずることができない。
・会社への帰属意識、ロイヤリティが高まらないことが多い

●メンバーシップ型雇用
 メリット
・長期雇用を前提に新卒者、若者の採用を積極的に行える。
・会社が社員のキャリアプランを中長期的に描かせることができる
・長期雇用が前提となっており、転職リスクがすくない(少なかった)
・契約にない仕事や残業などを命じやすく、転勤なども命令することができる
・会社への帰属意識、ロイヤリティが高くなることが多い(多かった)

デメリット
・社員をかかえてしまい、必要な人材をタイムリーに採用しにくい。
・年功的賃金になりやすく、また解雇が難しいため人件費が高騰しやすい。
・解雇が難しいため、場合によっては「社内失業状態」の社員を抱えてしまう。
・本人の希望する仕事とは違う仕事につくこともあるため、希望とのミスマッチが生じることも多くなる
・同じ職務をやり続けることが前提にないため、専門性が付きにくい場合がある
・中長期的な教育が必要であり、そのコストもかかる
・中高年になり、やる気がなくなった社員のモチベーションを維持させることが難しい

 このようにみると、「ジョブ型雇用」と「メンバーシップ型雇用」は、ほぼ対局にあることがわかります。それぞれに長所、短所があります。では、これからの時代、どちらの雇用形態が主流となってくるのでしょうか?答えは明らかに「ジョブ型雇用」でしょう。世界中の人がどこでも、いつでもつながり働けるようになると、「その時必要な労働力」とのマッチングが進みます。あえて社内で労働力として抱えておく必要がなく、必要に応じて世界中から安くて優秀な労働力を探すことができるようになってきます。また、社員のほうも長期雇用を前提に自分の人生を契約でしばられるようなことは望まなくなっていくでしょう。多くの仕事の中から(能力があればですが)自分に合ったものを選択することができます。このような時代に「メンバーシップ型雇用」を維持し続けることは、企業にとって大きなリスクになってしまいます。さらに「ジョブ型雇用」は限りなく業務委託と区別がつきにくくなり、「雇用」という概念すらなくなってしまう可能性すらあります。

 では、企業はこれからは、「ジョブ型雇用」だけを推進していけばいいのでしょうか?私は、これまでの「メンバーシップ型」の良さを残しつつも、あらたな時代に対応した「コミュニティ型雇用」とでもいうべき、新しい働き方が増えていくのではないかと考えています。
コミュニティ型社員とは、長期雇用を前提として会社に入りますが、それが会社からの長期の金銭的、生活的補償を前提として滅私報告して働くというものではなく、会社の価値観や方向性に共感し、自分の人生の一部にそれが組み込まれて、会社の仲間と強いつながりを維持しながら働いていくという雇用形態です。コミュニティ型雇用がメンバーシップ型雇用と一番違う点は、社員には自律した働き方が求められるという点です。逆に言えば、会社はそのような社員が活躍できる場をつくらなければなりません。契約的に結びついた雇用でなく、お互いに限りなく自由で自律しながら「やりたいことが似ている。楽しく感じることが似ている。価値観が似ている。望んでいる未来が似ている」という点で結びついている雇用形態です。
企業は常に新しい仕事を生み出していかなければなりません。それは、今までは主に経営者の仕事だったかもしれません。しかし、今の時代、少数の経営者だけで、常に新たな仕事を生み出していくというのは非常に難しいです。より多くの「価値観や問題意識を共有したメンバー」とともに組織を運営していかなければ、会社は新たな課題解決のための商品、サービスを時代のスピードについていきながら生み出していくことはできないでしょう。コミュニティ型社員は「忠実で言われたことを一生懸命やる」だけの社員ではなく、自律した考えをもちながらも、会社方針にコミットした行動がとれる社員です。そして、少なくとも自分が何で組織に貢献できるかを理解し、その能力を備えている社員です。
価値観を共有し、長期的な視点で一緒に動くことができる「コミュニティ型雇用」の社員がこれからの時代は会社のコアとなっていくのではないでしょうか。