「多様な働き方」時代に求められる2つの人事制度の使い分け


「働き方改革」関連法案が成立し、今後ますます働き方はかわっていくことになるでしょう。労働力人口が減少していく中、企業はこれまでの正社員を主力とした人事体系から、短時間正社員、在宅勤務者、高齢者や外国人や障碍のある方、さらに労働者だけでなくフリーランサーの活用など、さまざまな力を活用させることが求められてくるでしょう。すでに、製造業、小売業、介護・福祉関連業などは、深刻な人度不足直面している企業も多くみられます。

このような時代において、企業はどのような人事制度を構築していくべきなのでしょうか。これまでの日本の人事制度は、「年功的・職能的」賃金体系を軸にして、長期雇用の正社員を想定されているものが主流でした。バブル崩壊後、年功的な人事制度が崩壊したと言われますが、正社員が1つの会社の中で職務遂行能力を高め、それに応じて賃金も上昇していくという基本的な形を維持している企業はまだ多くあります。成果型の評価制度なども多く導入していますが、その評価結果は賞与などの一時金に多く反映され、月額給与自体が上下するしくみとなっている制度はまだそれほど多くありません。また、これらの評価制度は長期雇用を前提とした正社員にのみ適用され、契約社員やアルバイトは一律的な賃金体系で、昇給などもないことも珍しくありませんでした。

しかし、「ハマキョウレックス事件」の最高裁判決でみるように、これからは、正社員や契約社員などの名称に関係なく、同じ仕事をしていれば同じ待遇としなければいけない「同一労働同一賃金」が求められ、2020年に法律も施行される予定です。

企業の人事制度は抜本的に見直さなければいけない時期に来ているのです。では、どのような人事制度を検討していくべきなのでしょうか。ポイントは2あります。1点目は、法律的にことも踏まえて、「役割給」を基本に考えていかないといけないとうことです。先ほど述べたように、これからは様々な働き方が可能になります。勤務時間や働く場所も多様になります。そのような状況のなかでは、明確に本人に「役割」を示し、その役割に応じた評価や給与体系とすべきです。実際の運用では、同じ「役割」といえども、経験や成果は人によってちがってくるので一定の幅(レンジ)はつけるべきですが、市場価値なども意識した範囲給で運用すべきでしょう。評価は「その役割が全うできているか」という視点で、目標管理や発揮能力の評価を実施します。

2点目は、自律的な組織で自由に働いてもらうことを前提とした社員への評価方法です。これからの組織は、ピラミッド型ではなく、よりフラットな形で現場で働く一人一人がそれぞれの判断で行動しなくては、複雑な問題をスピーディに解決できません。上記のように具体的な役割を与え、その範囲でのみ評価するのではなく、「組織の方向性を理解したうえで、自律した働き方(時間的にも場所的にも)をし、さまざまな面から組織に貢献する」社員も増えてくるでしょう。逆にそのような社員を増やさなければ、企業は柔軟に課題に対応し、イノベーションを起こしていくことができないのです。このような社員は、①社外市場価値と②社内市場価値を軸とした評価を行い、報酬は組織貢献に応じた実力給とすべきでしょう。①社外市場価値とは言葉のとおり、その職種の世間相場です。これは、賃金統計や求人情報で調査することができます。②の社内市場価値とは、会社にとってその社員がどれほど他に代えがたいかどうかという視点になります。具体的には会社のクレドや経営理念を理解し、実際にそれにそった行動ができているか(クレドの理解とコンピテンシー)という点を総合的に評価します。ここで重要なのは、クレドやコンピテンシーは、会社にはいくつもの項目を設定しますが、どの項目を重要視するかは常に変化しているという点です。それは、日々の業務やミッションが移り変わることが当たり前になり、同じ項目だけでは評価できないからです。

では、「役割給」を適用する社員と「貢献に応じた実力給」を適用する社員は、どのように区分すべきでしょうか。これは社員の意識段階よって区分すべきです。

*成人発達論を軸とした個人の変容5段階(等級基準)

第1段階の社員は、自分に自信がなく、周囲に対しても素直な行動がとれません。働くことに対してネガティブなだけでなく、自分自身の人生に対してもネガティブな感覚を持っています。このような社員の働く動機付けは「お金」でしかなく、まず仕事を通して執務態度や周囲とのつながりをもち、働くこと、ひいては自分の人生に対してポジティブなこともあるという気づきを得てもらう必要があります。リーダーとしては、ある程度、しっかりとした指示・命令をだし、量としての仕事をしっかりとしてもらいながら、コミュニケーションをとっていくことが求められます。

第2段階の社員は、仕事にたいしてまじめで、言われたことを素直に受け止め行動できますが、自分自身に自信はなく、自律した行動はとれません。ただ、仕事ができる上司や先輩を見て「自分もあのようになりたい」と前向きに考えることはできるようになります。「自分はまだすごいとは言えないが、がんばればすごくなれる。上司や先輩はすごい」と仕事や職場に対して前向きにとらえることができるのです。この段階では、リーダーは十分に努力に対して承認を与え、できることを一つずつ増やして、能力を高めてあげることが重要です。

第3段階の社員は、自分の仕事に対してある程度自信を持って行動できるようになっています。この段階では、自分自身の仕事だけでなく、後輩や周囲の仕事も見ることが自然と求められるようになり、本人もその自覚が多少芽生えてきます。つまり、リーダー予備軍のレベルです。チームを率いたり、リーダーの補佐となることで、自分の力を実感する機会も増えてきますが、「自分は素晴らしい」という自信は、個人としての過信となり、周囲とのつながりを軽視して、自分本位な行動にでる危険性もあります。まだ、チームや組織全体を見て行動できる視点にまでは立てておらず、「自分」視点で物事を判断しがちです。

第4段階になって、はじめて主語が「私たち」と使うことが多くなります。個人の利益でなくチーム全体の利益を考えた行動ができるようになります。いかにして自分がチームや全体に「貢献できるか」が本人のモチベーションにもなるのです。この段階になると社内でもほかの部門との協働や、他社とのコレボレーションなどもうまくつまとめることができるようになり、また「利益」だけでなく、社会貢献やCSR活動にも興味を示し、実際に行動する人が多くなります。もちろん、自分の仕事に誇りを持ち、楽しみながら働くことができています。

そして第5段階になると、これまでにない新たな著性を模索し、新しい価値を生むことに高い意欲をもつよういなります。まさに経営者の視点であり、イノベーションを生むための行動をします。競合他社と競争し、勝ち負けを意識するよりも、社会全体のためにいかにコラボレーションを組むかという発想を常にするようになるのです。

人事制度においては、4段階以上の意識レベル・行動レベルができる社員は「自律分散型組織」のメンバーとなることができます。よって、このような社員は、自律的な働き方を認め「貢献に応じた実力給」とすべきでしょう。1段階や2段階の社員には、まだ「自律」した行動ができないので、事細かな指示命令やマネジメントが必要です。しっかりとした「役割」を与え、その成果や行動に応じた評価をすべきです。残業時間などもしっかりと管理しなければ労務問題に発展するリスクもあります。3段階は、本来自律的な働き方をしてもらいたいのですが、まだ4段階になりきれていない場合が多いので基本的には「役割」の評価とすべきです。しかし、本人が成長を望むのであれば、4段階的な人事制度に入れてみるのもいいでしょう。

3段階から4段階への社員を増やしていくことが、自律分散型組織にしていくための必須課題となるのです。そして、そのためには、本サイトでもご紹介しているような会社全体で「組織開発」に取り組んでいくべきなので。