高年齢者雇用安定法 法改正情報③


65歳から70歳までの就業確保措置は努力義務となっていますが、将来は義務化されることは間違いありません。努力義務でありますが、就業確保措置の実行化を持たせるために高年齢者雇用安定法【法10条の3、規則52条1項】の改正を行っています。

就業確保措置の実行化の具体策として①行政指導【法10条の3】、②雇用状況等の報告【則52条1項】③65歳超雇用推進助成金【こちらは従来より助成金】があります。

①行政指導【法10条の3】

(ⅰ)厚生労働大臣は高年齢者の65歳から70歳までの安定した雇用の確保その他就業機会の確保のため必要があると認めるときは、事業主に対し、高年齢者就業確保措置の実施について、必要な指導及び助言をすることができる。

(ⅱ)必要な指導及び助言をしたにも関わらず、状況が改善していないと認めるときは、当該事業主に対し、高年齢者就業確保措置の実施に関する計画の作成を勧告することができる。

(ⅲ)作成された計画が著しく不適当であると認めるときは、その変更を勧告することができる。

簡単に補足すれば、
(ⅰ)努力義務であるが、厚生労働大臣は高年齢者就業確保措置の実施について必要な指導・助言ができる。
(ⅱ)厚生労働大臣は、計画を作り直すように勧告もできる。
(ⅲ)厚生労働大臣は、外見上、計画はできていても、計画の内容が不適当であれば変更の勧告もできる。
法改正により、努力義務ではあるが、(ⅰ)から(ⅲ)まで行政指導ができるようになりました。

②雇用状況等の報告【則52条1項】

従来から事業主には、毎年1回、高年齢者の雇用状況に関する厚生労働大臣への報告が義務付けられています。

法改正により、報告事項に「65歳以上の継続雇用制度」、「創業支援等措置」の状況が追加されることになりました。法改正により、新しく「創業支援等措置」が加わったため、雇用状況等の報告に「等」という一文字が加わりました。

③65歳超雇用推進助成金

従来から助成金はありますが、この助成金は3コースに分かれます。❶65歳以上継続雇用促進コース、❷高年齢者評価制度等雇用管理改善コース、❸高年齢者無期雇用転換コースの3つコースが設定してあります。

❶65歳以上継続雇用促進コース

65歳以上への定年引上げ、定年の定めの廃止、希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度の導入、他社による継続雇用制度のいずれかを導入した事業主への助成になります。

❷高年齢者評価制度等雇用管理改善コース

高年齢者向けの雇用管理制度の整備等に係る措置を実施した事業主に対する助成になります。

❸高年齢者無期雇用転換コース

50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者を無期雇用に転換させた事業主に対する助成になります。

 特に、❷高年齢者評価制度等雇用管理改善コースは社会保険労務士向きの助成金になるかと思います。

【労働施策総合推進法の改正】

労働施策総合推進法の改正により、「中途採用に関する情報公表制度」の創設がされました。①「中途採用に関する情報公表制度」【法27条の2第1項】になります。また法改正と同時に②「公表の方法」【則9条の2第1項】について施行規則も改正されています。

①情報公表制度の創設【法27条の2第1項】

法改正がありましたが、常時労働者数により義務化、義務化されていないに分かれます。

今回の法改正により、常時雇用労働者数300人超の事業主は、労働者の職業選択に資するよう、雇い入れた通常の労働者およびこれに準ずる者【短時間正社員】の数に占める中途採用により雇い入れられた者の数の割合を定期的に公表しなければならない。

日本政府として情報公表制度の創設は、これからは大企業のような新規学卒者採用ではなくなってくるだろう、高年齢者も含めて中途採用の雇用を増やしたいという意向があり、中途採用者の数を公表して活性化させるねらいがあると考えられます。

②公表の方法【則9条の2第1項】

情報公表制度に基づく公表方法は、おおむね1年1回以上、公表日を明らかにし、直近の3事業年度について、インターネットの利用等の方法により、求職者等が容易に閲覧できるように行うと施行規則を改正しています。

簡単に補足すれば、公表は1年1回以上、直近の3事業年度になりますので、平成30年・令和元年、令和2年の3事業年度を公表するということになります。

【国民年金法改正】

国民年金法で改正点をあげるとすれば、①寡婦年金の支給除外要件の見直し、②脱退一時金の上限の見直しになります。

①寡婦年金の支給除外要件の見直し【法49条1項但書】

国民年金の独自給付として寡婦年金制度があります。寡婦年金は、妻が寡婦年金を受け取れないことがしばしば問題になっていました。

改正前は夫が障害基礎年金の受給権者であったことがあるとき、または老齢基礎年金の支給を受けていたときは支給されないと規定されていました。障害基礎年金の受給権者であった、障害基礎年金を受給していなくても、受給権者になってしまうと寡婦年金が受給できない方がいました。

改正後は老齢基礎年金または障害基礎年金の支給を受けたことがある夫が死亡したとき、というように但し書きを変更しています。老齢基礎年金、障害基礎年金に取り扱いが違っていたところを変更しています。

②脱退一時金の上限の見直し【法附則9条の3の2第3項】

出入国管理法改正により『特定技能』制度が創設されています。『特定技能』の在留期間が5年になっていますので、国民年金の脱退一時金の支給上限年数を従来の3年『36月』から5年『60月』へと引き上げられました。

【計算式】

上限【対象月数60月以上】に該当する場合の金額計算は

16,610円【4月以降】×0.5×60月=498,300円

となります。簡単に補足すれば、脱退一時金の金額が増えるということになります。

【厚生年金保険法改正】

①脱退一時金の上限の見直し【法附則29条4項】

出入国管理法改正により『特定技能』制度が創設されています。『特定技能』の在留期間が5年になっていますので、厚生年金保険法の脱退一時金に関しても、国民年金法と同じ趣旨で改正が行われました。

※支給額の算出方法:計算式自体に変更はありませんので注意してください

 被保険者であった期間の平均標準報酬額×支給率

 支給率=0.183×0.5×被保険者期間の区分に応じた数

 被保険者期間の区分に応じた数の上限を引き上げています。

【労災保険法施行規則改正】

就業形態の多様化等の社会経済情勢の変化を踏まえて、労災保険における「一人親方等の特別加入」の範囲が拡大されることになりました。「一人親方等の特別加入」の範囲が拡大したことにより4類型が追加されることになりました。

「一人親方等の特別加入」の範囲が拡大したことにより追加された4類型が❶から❹のとおりになります。
❶柔道整復師【則46条の17第8号】
❷創業支援等措置に基づく事業を行う高年齢者【則46条の17第9号】
❸芸能関係等作業従事者【則46条の18第6号】
❹アニメーション制作作業従事者【則46条の18第7号】

❶から❹まで特別加入の保険料率は1000分の3と共通になっています。実績がないので一番下の保険料率になっていることが考えられます。❸芸能関係等作業従事者【則46条の18第6号】と❹アニメーション制作作業従事者【則46条の18第7号】は業務が重複することがあります。その場合は、❸芸能関係等作業従事者【則46条の18第6号】を優先することになっています。❸芸能関係等作業従事者【則46条の18第6号】に該当しない場合に初めて❹アニメーション制作作業従事者【則46条の18第7号】に該当させます。

❷創業支援等措置に基づく事業を行う高年齢者【則46条の17第9号】に係る特別加入見ていきます。

【加入対象事業】

高年齢者雇用安定法10条の2第2項に規定する創業支援等措置に基づいて、

①委託契約等の契約により高年齢者が新たに開始する事業
②社会貢献事業に係る委託契約等の契約により高年齢者が行う事業

に該当する場合、特別加入することができます。

創業支援等措置を採用する事業場であれば、特別加入できる制度を高年齢者に伝えておく必要があるかと思います。労災事故が発生しても、特別加入していないと無保険状態になります。労災事故が発生した際にトラブルになると考えられますのでご注意ください。