助成金をもらうために押さえておきたい共通のポイント


1.補助金と助成金の違い

●補助金

事業主が申請してもらえるお金には、主に補助金と助成金があります。ただ、どちらも政策の意図がありますので、それぞれ要件を満たし、労働基準法や社会保険等の基準を満たす必要があります。

補助金は、主に国の年度予算の範囲で、公募があり選ばれた企業に支給されるものですので、申請すれば必ず受給できるものではありません。

●助成金

助成金は、主に厚生労働省が取り扱っており、企業が非正規社員から正規社員への転換を整備したり、社員の教育訓練制度を整えたり、高齢者、障碍者を採用したり、コロナ禍では雇用調整助成金のように、従業員に休業手当を支給し、雇用を継続する企業に支給するなど、法律を上回る環境を整備した企業に対して、申請して支給されます。

2.助成金で必ず必要となる書類と審査で確認されるポイント

厚生労働省系の助成金は、社員に関するものが中心となりますので、助成金の申請には、該当する社員の賃金台帳と出勤簿の提出が必要となります。

助成金は、労働基準法を守っていることが前提となりますので、審査では、賃金台帳と出勤簿から必ず次のポイントが確認されます。

1.雇入日と雇用保険の取得日が同じ日か
2.残業代の未払いが発生していないか

●残業代の支払いがクリア出来れば8割は支給決定される

2.の残業代については、審査で一番指摘が多い箇所で、ここがクリア出来れば8割支給決定されたといっても過言ではありませんので、労働基準法の視点で詳しく説明していきます。

労働基準法では、労働時間は、原則、1週40時間、1日8時間(休憩時間を除く)で、週1日の休日が定められています(法定休日といいます)。その時間を超えて、または法定休日に働かせた場合は、残業代を支払うことが定められています。

そのため助成金の審査では、このポイントを丁寧に審査され未払残業が発生していないか審査しています。審査で未払残業が発生していると指摘を受けた場合は、その時点で支払えば審査は通りますが、助成金の対象とならない社員との調整を検討する必要性も出てきますので、後払いとならない労働時間の管理が、後々面倒な手間を省くためにも必要です。

3.残業となる時間と残業とならない時間の境界線

大前提として、残業代を計算するためには、残業となる時間と残業とならない時間の境界線を決めていきます。(労働時間の型といいます)

サービス業のケースで見ていきます。

勤務開始時刻8時30分
勤務終了時刻19時
休憩1時間
休日は週休2日、休日出勤は月平均2日

この場合は、1日の労働時間は19時-8.5時-1時間=9.5時間となります。休日出勤を1日して1週間6日勤務となった場合は(勤務時間は他の日と同じ9.5時間)、その週の残業時間は何時間となるでしょうか。

労働基準法の原則は、1週40時間(1日8時間×5日間)、1日8時間ですので、1日単位で見ると9.5時間-8時間=1.5時間が残業時間となり、6日目については、9.5時間が丸丸残業時間となり、1週間の残業時間は1.5時間×5日間+9.5時間=17時間が残業時間となります。1ヶ月の残業時間の試算では、月の労働日数を21日とした場合、21日×1日の残業時間1.5時間=31.5時間。休日出勤2日分は、9.5時間×2日=19時間。合計50.5時間の残業が発生していることになります。

上記のように6日目の勤務があれば、6日目が丸丸残業時間としてカウントされるため、カウントされない例外的な労働時間の取り扱いとして変形労働時間制という考えがあります。

1ヶ月間や1年間で週平均40時間となれば、特定の日が8時間を超えても、6日勤務で週40時間を超えた時間でも残業となりません。つまり、1ヶ月間や1年間で労働時間をやり繰りしましょうという考え方です。1ヶ月間ですと、31日の場合、1週40時間×31日÷1週間7日≒177時間が、残業とならない労働時間の境界線となります。
このような視点で審査では残業時間と残業代の過不足を確認しています。

●合法的に週6日勤務を可能にする変形労働時間制と は?

変形労働時間で運用するには、その旨を就業規則に規定し、労働基準監督署に変形労働時間制の協定届を提出して、初めて法律的有効性が認められます。
もう少し言うと、休日が固定しないシフト制の会社や、休日出勤が常態として月に何回かある会社では、1週6日勤務になるケースが想定されることから、変形労働時間制の運用が望ましく、従業員が10人以上いる会社は、1ヶ月単位の変形労働時間制の運用であれば、就業規則に規定し労働基準監督署に届出て法律的に担保されることになります。
従業員が10人未満であれば1ヶ月単位の変形労働時間制の協定届だけを監督署に届出ることになり、1年単位の変形労働時間制であれば、必ず監督署に届出る必要があります。

4.助成金の検討と同時に労働時間の型を改めて確認する

助成金の申請を検討する段階で、まずこの残業となる時間と残業とならない時間の境界線、労働時間の型を確認することが必要です。労働時間の型と合わせて、残業時間に対する残業代の検討も必要です。

サービス業のケースで1ヶ月の残業時間は50.5時間でした。50.5時間については、大企業はもとより中小企業でも2020年4月から施行された改正労働基準法において、月45時間を超える残業をさせた場合、原則労働基準法違反となりますが、助成金の審査では、現時点、残業代の未払いがないかという視点で審査されていますので、この残業代を支払済みであれば審査は通ります。
また、残業が予めあったものとみなして固定で支給する給与の構成でも構いません。
例えば、総支給額25万円を想定して採用する場合は、基本給18万円、固定残業代を7万円となります。18万円÷168時間(21日/月労働日数×8時間)×1.25×50.5時間≒68,000円となります。

●残り2割の共通要件とは?

上記以外の主な共通要件は、下記の通りです。

(1) 雇用保険適用事業所の事業主であること
(2) 申請期限内に申請すること
(3) 過去に助成金を不正受給していないこと
平成31年4月1日以降に雇用関係助成金を申請し、不正受給による不支給決定又は支給決定の取り消しを受けた場合、当該不支給決定日又は支給決定取消日から5年を経過していない事業主は申請できません。
(4) 労働保険料を滞納していないこと(納期限に納付していなくとも完納していれば大丈夫です)
(5) 性風俗関連営業、接待を伴う飲食等営業またはこれら営業の一部を受託する営業を行う事業主は申請できません
(6) 事業主又は事業主の役員等が、暴力団と関わりがないこと

5.さいごに

助成金は、年度単位で変更されますが、要件さえクリアできれば必ず受給できるものです。

2021年はコロナの影響から雇用調整を目的とする従業員の出向に対して、出向元事業主、出向先事業主が行った訓練費用や、健康診断費用、業務説明会の実施費用等の経費助成として、「産業雇用安定助成金」が新設されています。

助成金の申請するにあたって、現状の労働時間と残業時間を確認してみてください。そして、無理のない制度設計で助成金を活用できれば、会社にとっても助かる資金助成となり、社内の労働環境が整うことにも繋がりますので、上手に活用してみてください。

執筆者: 菊地 登康  / 2021年4月掲載