きちんと運用できていますか? 有給休暇のよくある質問


働き方改革による法改正により、2019年4月から、年次有給休暇を10日以上付与される労働者には、“年次有給休暇の5日取得”が義務化されました。この法改正により有給休暇の取得率が上がり、また会社にも労働者にも「1年に5日は取得する」ということが一般的に認識されてきました。

しかし、有給休暇制度は意外と複雑な部分も多く、日頃の運用について様々な質問を受けることがあります。今回は、そんな問い合わせの中から頻繁に聞かれる2点について解説していきたいと思います。

1.有給休暇や半日単位、時間単位で取得することはできますか?

最近は育児や介護など、さまざまな事情を抱えながら働く社員も多くなってきました。

「急に子供が発熱したので病院に連れて行って午後から仕事に行きたい」「今日は1時間早めに仕事を切り上げて親の介護をしたい」といった要望もよくあるのではないでしょうか。そのような場合、その時間に対して有給休暇を充てることができるのでしょうか?

本来、有給休暇は“1日単位”で与えることが原則です。有給休暇は疲労回復やリフレッシュするということが本来の意義だからです。しかし、1日単位にこだわるあまり、有給休暇を取りづらくなってしまうことは本末転倒です。そのため、労働者が希望し、使用者も同意すれば半日単位や1日単位で取得することが可能です。

具体的には、半日単位の場合は、労使協定などの労使間の細かい取り決めがなくても「本来の取得方法による休暇取得の阻害とならない範囲で適切に運用される限りにおいて、問題がない」とされています。

なお、半日の区切りをどうするかについては、法律上の定めはありません。例えば、1日の勤務が9時~18時で、12時から1時間が休憩という会社があったとすれば、半日の区切りを9時~12時(午前)と13時~18時(午後)と分けても構いません。

この運用だと午前の方が短くなってしまうので不公平だということであれば、1日の所定労働時間をしっかり半分に分けて実働4時間ずつ区切るような運用でも構いません。ただし、その時によって異なる取扱いにならないように、どのような運用にするかは就業規則等によって定めておくことが必要です。

次に、時間単位の運用についてです。時間単位の取得の場合は、半日単位と異なり、労使協定を締結しなくてはなりません。労使協定に規定する内容は、下記の4点となります。

(1)時間単位年休の対象労働者の範囲
(2)時間単位年休の日数(上限5日)
(3)時間単位年休1日の時間数
(4)1時間以外の時間を単位とする場合はその時間数

注意すべき点として(2)の時間単位年休の日数については、前述したように有給休暇本来の意義は1日単位となりますので、時間単位で取得することができるのは、本人が希望したとしても5日が上限となります(前年度からの繰り越し分含めても5日が上限)。

また、(3)の時間単位年休1日の時間数については、原則所定労働時間数となりますが、例えば1日の所定労働時間が7時間30分など1時間未満の端数がある場合には、切り上げて8時間とする必要があります。

なお、“年5日取得の義務”については、時間単位有給の取得は対象となりません。例えば1日8時間の所定労働時間の場合、40時間分の時間単位有給を取得したとしても年5日取得の義務を果たしていることにはならないので注意が必要です。

2.会社の繁忙期にも有給休暇を取得させなくてはいけない?

有給休暇は、原則として労働者が希望した日に会社は与えなければなりません。しかし、1年で一番の繁忙期に取得されると、業務がまわらなくなるという場合もあり得るでしょう。そのような場合、その時季に年次有給休暇を取得されると、事業の正常な運用を妨げる場合には、時季変更権を行使して、有給取得日を変更できるとされています。

しかし、社員が有給休暇を取得しようとするたびに、会社からいつも「その日は忙しいから他の日にしてくれ」と言われてしまうようであれば、原則の労働者が希望した日に与えるということが果たされませんし、有給休暇の取得が進みません。

そのため、ただ忙しいからということではなく、あくまで“事業の運営を妨げる場合に限り”認められることになっています。例えば、会社の中でその社員しかできないような職務を任せていて、その該当日にその社員が休んでしまうと、事業に大きな影響が生じるといった場合であったり、同じ日に多数の社員が有給取得の希望があったりなど、希望者全員が休んでしまうと事業に影響が出てしまうといったようなことです。
つまり、簡単に時季変更権が認められるわけではありません。

このような有給休暇を労使お互いにスムーズに取得するためには、有給取得を取得するときのルールを定めておきましょう。もし、どうしても会社側が有給取得日を変更してもらい場合は「時季変更権を行使する」というような固い話ではなく、変更してもらいたい理由を伝えて社員にお願いするなど、労使双方に“お互い様”というような文化を日頃から形成しておくことが重要です。

(執筆:2021年1月)

西田 周平
有限会社人事・労務チーフ人事コンサルタント
日本大学法学部卒業後、食品メーカーを経て現職。従業員が500名を超える会社から数名の会社まで幅広い企業のES向上型人事制度作成に数多く携わるほか、多くの労働基準監督署の是正勧告対応などの労務トラブルに対応し、その経験からリスク管理に長けた就業規則を作成するなど、中小企業の人事・労務に精通している。最近は、執筆や講演も精力的に行っている。