【同一労働同一賃金】パートタイム・有期雇用労働法の3つの改正ポイント


働き方改革、同一労働同一賃金、パートタイム・有期雇用労働法の改正施行……。

ここ数年、怒涛のように職場の雇用環境を巡るキーワードが繰り返される中、「自社では何から取り組めば良いのだろうか…」「そもそも何か取り組んだ方が良いのかな…」と、漠然とした不安に駆られ、立ち止まったままになっていませんか?

今回は、パートタイム・有期雇用労働法の改正のポイントごとに「企業は具体的にどのような取り組みをしていったらよいのか」という視点で見ていきます。

同一労働同一賃金の実現に向けて

少子高齢化の進展で働き手が不足する中、フルタイムで働く正社員だけではなく、それぞれの事情を抱えながら短時間のパートタイマーや有期契約社員という雇用形態を選んで働く人々も、今や企業にとって欠かせない存在となっています。

その正社員以外のいわゆる非正規労働者の仕事ぶりや能力を適正に評価し、彼らが自身の待遇に納得して働けるよう、正社員と非正規労働者との間にある不合理な待遇差をなくしていこうという考え方が同一労働同一賃金です(以下、非正規労働者=パートタイム労働者および有期雇用労働者)。

その同一労働同一賃金の実現に向けて整備されたのが以下の2つです。

(1)パートタイム・有期雇用労働法の改正施行

→不合理な待遇差かどうかを判断するための基準として、均等待遇規定(第9条)と均衡待遇規定(第8条)が設けられました。

(2)同一労働同一賃金ガイドライン

→不合理な待遇差を判断するための原則となる考え方と具体例を確認することができます。

それぞれ昨年4月に大企業を対象に先行して施行(適用)され、そして今年、2021年4月には中小企業も対象に全面施行されます。

パートタイム・有期雇用労働法の3つの改正ポイント

パートタイム・有期雇用労働法は、その名の通り前身のパートタイム労働法*1に労働契約法第20条*2が統合され改正、名称が変更されました。

*1 正社員と短時間労働者との間の待遇に関する規定
*2 正社員と有期雇用労働者との間の待遇に関する規定

【1】不合理な待遇差の禁止
【2】労働者に対する待遇に関する説明義務の強化
【3】行政による履行確保措置及び裁判外紛争解決手続(行政ADR)の規定の整備

(厚生労働省:不合理な待遇差解消のための 点検・検討マニュアルより)

主に企業が取り組むべき【1】と【2】について見ていきます。

【1】不合理な待遇差の禁止

同一企業内の正社員、その他の非正規労働者が働く職場で、基本給・手当・教育・賞与などのあらゆる待遇について、不合理な待遇差を設けることが禁止されています。

例えば、社内で正社員と呼ばれる従業員には毎月の交通費が支給され、年2回の賞与が出る一方で、パートタイマーとして働く従業員には交通費も賞与の支給もない、というケースがあった場合、企業はこれらの待遇の差について合理的な理由を説明できないかぎり、その待遇差を解消していかなければならないということです。

では、自社では何から取り組めば良いのでしょうか。厚生労働省の不合理な待遇差解消のための 点検・検討マニュアルを参考に手順を見ていきましょう。

ステップ1)雇用形態区分の整理

契約期間、労働時間の観点から現行の従業員タイプの特徴を整理します。正社員、パートタイマー、有期契約労働者、嘱託社員など、自社の従業員を雇用形態ごとに明確に区分していきます。

ステップ2)待遇の洗い出し

同一労働同一賃金の対象となる基本給、手当、賞与、退職金、休暇、福利厚生、教育訓練などについて待遇の種類と、個々の待遇を与える場合と与えない場合の基準を確認します。

ステップ3)雇用形態区分×待遇の整理

ステップ1と2で確認された雇用形態と待遇ごとに、待遇の有無、支給要件、計算方法などを整理していきます。

ステップ4)待遇差の妥当性について点検

ステップ3で整理された待遇に差がある場合、妥当性があるものか、そして合理的な説明ができる内容かを点検していきます。

ここで、前述のパートタイム・有期雇用労度法に規定された均等待遇規定および均衡待遇規定、そして同一労働同一労働ガイドラインにある具体例を参考に検討していきます。

ステップ5)待遇差が妥当ではない場合の対応策の検討、待遇差の是正

点検の結果、不合理な待遇差があると認められた場合、待遇差を解消していくため、待遇の見直し、就業規則の改定、待遇に関する説明文書の作成等を行います。

今まで慣行として支給されてきた手当や既存の規定について改めて点検をしてみると、実は根拠が曖昧であったり、古くなりすぎで実態と合っていなかったり、ということが多く見受けられます。まずは手順に沿って整理→点検→検討に取り組みましょう。

【2】労働者に対する待遇に関する説明義務の強化

次に、法改正により、企業は待遇に関する説明義務が強化されました。以前から、パートタイム労働者からの求めがあった場合には待遇についての説明義務はありましたが、改正ではさらに「正社員との待遇の差」について内容やその理由を説明する義務が加わりました。

パート「なんで正社員には賞与が支給されて、同じ仕事をしている私には支給がないのですか?」
会 社「だって…パートだから…。昔からうちの会社はそうだから…。」

このような会話は許されなくなります。待遇差に関する説明義務の強化は、言い換えれば、説明のできない待遇差についてはすぐに見直し、待遇差の解消に取り組まなければいけないということです。前述のステップ4と5で点検・検討をする際に、説明することを想定して一つ一つの待遇差の整理を行っていくとよいでしょう。

説明の方法は、労働者が理解しやすいように説明内容を記載した資料を添えて、口頭での説明を基本とします。または口頭で説明する内容を全て記載した資料を作成し、交付するなどの方法でも構いません。

最後に

自社での同一労働同一賃金の実現に向けて、パートタイム有期雇用労働法の改正ポイントに沿った具体的な取り組み方はイメージできたでしょうか。一人でもパートさんや有期契約の社員がいる職場では、改めて待遇についての整理、点検、検討を行ってみましょう。

佃 奈穂

有限会社人事・労務 サムライ会メンバー
社会保険労務士
法政大学経済学部を卒業後、リクルートに入社。出産を機に社会保険労務士の資格を取得し、約4年間の社労士事務所勤務を経て地元厚木で開業3年目。神奈川・東京を中心に中小企業の顧問社労士として人事労務に携わる。