Being(あり方)を軸とした等級基準
Doing・KnowingのベースとなるBeing
(有)人事・労務 社会保険労務士の畑中です。以前のブログで、多様な働き方時代の「Being」(社員のあり方)を重視した組織づくりについて述べさせていただきました。
*11月24日ブログ 「多様な時代に会社が重視すべき社員のBeing」
これからの時代、能力を発揮し組織に貢献するためには(Doing=やっている)、さまざまな経験を経て能力を身につけなくてはならず(Knowing=知っている)、その経験や能力を身に着けるためには、本人の人生や仕事への意識や視座(Being=あり方)を高めていかないといけないということです。このDoing、Knowing、Beingは、ちょうど三角形のようになっており、いくらがんばっても、Beingの幅が狭ければ、おのずと得られる能力や成果も限られてくるのです。
自律分散型組織の等級基準はBeingにも注目すべき
さて、このように企業は単に三角形の一番上のDoingだけを見るのでなく、そのベースとなっているKnowingやBeingにも注目して、組織づくりや人材育成を進めていく必要があります。当然、これから自律分散型組織を目指すのであれば、人事制度の基軸となる等級基準にもこのような考え方を組み込んでいくべきです。
現在、多くの企業で運用される人事制度では、主にDoingを軸に等級基準がつくられています。つまり、どのような能力を発揮できるか、そしてどのような成果をだしてくれるのか=期待役割です。同一賃金同一労働がスタートし、この傾向はさらに強くなるようにも思われます。
しかし、一口に「期待役割」といっても、これからより複雑な社会のなかで、複雑な組織運営をしていくうえでは、この「期待役割」を事前に明確に具体的に示すこと自体が難しくなってきています。初級等級(上記の例でいえば、E-1からE-3くらいまで)であれば、具体的な職務を限定し、期待される発揮能力や成果、役割を具体的に示すことはできるでしょう。しかし、すでに1等級以上になってくると、その業務は複雑であり、期待する役割を具体的かつ短期的に示すことが難しくなります。
Doingについては抽象的にならざるをえないでしょう。Doingのみの等級基準は、実際に等級が高くなった方には理解できたとしても、その経験をまだしておらず、背景が見えにくい低い等級の者にとっては抽象的でわかりにくいものになるといわざるを得ないでしょう。
一方で、日本型経営といわれた年功序列型賃金では、Knowingを重視してきたといえます。組織への帰属意識を高め、様々な経験とジョブローテーションなどから得た経験と知識をしっかりと発揮できる人物が成果も残し、組織内も動かすことができて、等級を上げることができました。しかし、グローバル化が進み、過去の成功体験があまり意味を持たないほどに時代の変化が激しい現在では、Knowingのみを重視していては正しい評価はできません。今は成果がでていても、1年後には成果が出なくなってしまう可能性が高いからです。すでに多くの企業が日本型の終身雇用、年功序列型人事を放棄していることからもわかるとおり、Knowingに重きを置きすぎる等級基準もこれからの時代に合っているとは言えないのです。
このように、Doing、Knowingという視点を残しつつも、これからはBeingという視点をより重視していかなければなりません。この複雑な社会において、組織にとって重要な役割を担い、高い成果をだす(Doing)ためには、本質的で柔軟な能力と知識(Knowing)が必要です。それを見極めるためには、その人物がどのような意識や視座で仕事をしているか、もっといえば、どのような「生き方」をしているか(Being)というところまで見極める必要があるのです。
企業の等級基準にこのような抽象的なものさしを組み込むことに抵抗がある方もいるかもしれません。企業は硬直的で機械的な組織マネジメントから、まるで生命体のような多様で柔軟に対応できる組織に変化していかなければなりません。
そのためには社員一人一人の意識や視座を高め、より一人一人の個性が活かされる場を作っていくことが必要なのです。社員が安心して幸せを感じながら働ける場とは、その個性が周囲に理解され、活かされている状態でなければいけません。
一人一人が「自分」のことしか考えていない状態の職場ではそのような状態には絶対にならないのです。「自分」⇒「自分と相手」⇒「周囲全体」⇒「広く社会」という段階を経て、より多くの社員が、より広い視座をもつようになって、はじめて多様で柔軟で安心な職場となるのです。そして、そのような職場がこれからの時代に成果を出し続けることができる可能性が高いでしょう。
Being=あり方については、経営者や会社役員の方であれば、これまでも多かれ少なかれ意識をしていたことではないでしょうか。しかし、これからの時代は早い段階から社員にもこのことを意識してもらい、様々な経験・対話・内省を通して高めていってもらう必要があるのです。