『幸せに満たされる練習』著者・井上広法さん(光琳寺副住職)をゲストにお招きし、セミナーを開催致しました。

地元・宇都宮でまちに開かれたプラットフォームとしてのお寺の場づくりを推し進めたり、TV番組「ぶっちゃけ寺」には企画から参画、また、オンラインではさまざまな相談を受ける「hasunoha」を運営するなど、”仏教と心理学”の両面から現代人がより幸せに生きるヒントを伝える活動に取り組む井上副住職。
この日は、いま日本のビジネス界でも注目されている「マインドフルネス」や「幸福学」をテーマに、お話を伺いました。

まず井上副住職から投げかけられたのは、「きく」という言葉について。
聞く・訊く、などいくつかの漢字が充てられるこの言葉ですが、”目”と”心”が入っている「聴く」を意識することで、そこでの気づきを行動にうつすことができる。そのような聴き方をお伝えいただき、私たちの学びの姿勢が整えられました。

今、物質的満足度よりもQOL(Quality of life 生活の質の向上)に対する関心が高まり、ポジティブ心理学など”しあわせ”を考える専門分野によって科学的視点からも研究されるようになりました。
そのような現代において、「”しあわせ”とは何か?」を考えた時に、興味深い研究があります。
それは、リュボミアスキー教授の「人の持続的な幸福度に影響を及ぼす要因」に関する調査結果です。
要因として一番割合の高い「遺伝」は、50%。そして、一般に”幸福度に対して大きく影響を及ぼす”という印象の強いお金や地位、名誉といった「社会的(環境的)要因」は、実は10%でしかありません。
それでは残りの40%は何かというと、「意図的行動」。要は、”気の持ちよう”によって幸福度に影響が生じる、というものです。

例えば私たちは、「梅干し」や「レモン」の写真をみるととっさに口の中に唾液がじわじわと出てくることがありますが、これは、すっぱいものに対して、脳が”唾液を出せ”と指示する前に、体が勝手に反応している状態。つまり、意図せずしてとっさに行動したり勝手に感情が揺さぶられるのは人間の特性であり、意志をしっかりもって意図して自身のアクションを起こしていくことで「しあわせは自分でつくる」ことができる、ということになります。

そもそも、私たちの体は、一年間ですべての細胞が入れ替わると言います。
つまり、常に流動的に、私たちの中にある物質的なものは変化しているのです。
それなのに、「変わりたくない」「こうあるべきだ」と変化を拒んでしまうのは、脳みそが勝手に思考してしまっている証。
持論に固執するのは、生物学的には不自然なことで、まさに風に揺れる柳のように、根っこはしっかりと張りつつもしなやかにありのままにいることが大切であると言えます。

そのためにも必要なのが、「聴く」ということ。その時その瞬間の新鮮な目・心で観て感じることです。
つまり、マインドフルな状態で聴くということが重要なのだと言います。

今回のセミナーでは、3分間かけてたった一粒のレーズンを味わうというワークや、一杯の紅茶を飲み感じることに集中する紅茶瞑想を行ないましたが、このような日々のマインドフルネストレーニングで「心を整える」習慣を身につけることは、実は、「イノベーションが起きやすい組織」にも好影響をもたらすのです。

そこにあるのは、「共感」というキーワード。

イノベーションを起こす上では、どのような価値を生み出すために何をクリアにしながらコトを起こすか、という課題設定が重要です。そのような課題を描くためには、根幹に「聴く」、すなわち断定したり判断したりすることなくオープンマインドで声を聴く、という姿勢が重要。
そこから「相手の声に共感して聴く」段階に至り、さまざまな経験による実践知に基づく「問いを立てる力」が養われるのだと言います。

いま、「共感経済」とも言われているように、「いいね」「応援したい」という気持ちがはたらくことでモノを買ったり支援をしたりと、共感によって人の行動が促される社会の流れ、というのが強まっています。
これは、SNSが浸透し個の考えが多くの人たちに発信され届きやすくなったことや、成熟した社会において物質的価値よりも成長実感やコミュニティ意識など精神的豊かさによりどころを求める傾向が強まっていることなども影響しているでしょう。
しかし一方で、顧客第一で行動するあまりに疲弊してしまう社員や、感情労働に就き自身の感情コントロールが行き過ぎてバランスを崩してしまう社員、職場内の人間関係がうまくいかずさまざまなことをネガティブに捉えて悪循環に陥ってしまう社員など、心のあり方に「働き方・働くかたち・働く場」の影響が大きく作用して、問題が生じるケースも増えています。

そこで重要になってくるのが、心の置きどころ、つまり内発的動機をいかに強化できるか、ということ。
エドワード・デシ教授が提唱した「外発的報酬は内発的な動機づけを低下させる」という理論のように、一概に報酬や地位など外発的な要因で動機づけをするのではなく、自身のはたらき(仕事)そのものを通じた有能感や成長実感、自己決定感などを得ることでナカからの動機づけを強化し、心の置きどころを定めていくことが重要で、それがESを軸とした組織づくりであると言えます。

最後に、「自己肯定感」という言葉について、参加者も含め皆で考えました。
多くの質問も寄せられたこの「自己肯定感の高め方」について、井上副住職は、自身も研究中という前置きのもと、「極端な自己愛のアンチテーゼとして生まれた概念ではないか」とおっしゃいました。
仏教的な視点からとらえると、自己愛が行き過ぎて自分を極端に守ったり、逆に自分を傷つける”破壊的自己愛”に陥ることもあり、現代社会においては、この破壊的自己愛を変容させ自らを慈しむ心を醸成するという文脈から「自己肯定の大切さ」という文脈に至ったのではないか、と。
これを踏まえて矢萩会長からは、自身の中に慈しみの心=思いやりがあるから他者に対する共感が生まれ、その共感が組織においてはイノベーションの基点になるとすれば、自身の心を整え、互いに思いやりある関係性をつくるES組織開発が、これからの企業にとっての持続的な経営の礎になる、という話でセミナーを締めくくりました。

一社)日本ES開発協会の新年会として開催されたこのセミナー。

日頃活動にお力をいただいている経営者や地域リーダーの方々はもちろん、士業として企業を支える立場の方、管理職として組織を率いる方、そしてこれから社会に出る学生など、さまざまなメンバーの中で、「共感性の高いイノベーティブな組織を目指す上で、まずはお互いにマインドフルに聴くことから」という共通言語を胸に、学びの場を終えました。