年5日の年次有給休暇付与が会社に義務づけ ~パート・アルバイト従業員も対象~


働き方改革の中で労働基準法が改正され、2019(平成31)年4月1日から、すべての会社において、年10日以上の年次有給休暇(いわゆる年休)が付与される従業員に対して、年5日の年休を取得させる義務が会社に課されました。いわゆる正社員だけではなく、今後はパート・アルバイトなどの従業員に対しても対象者であれば必ず年休を与えなければならなくなります。

「来年からパート・アルバイトにも年休を与えなければいけなくなったのか。それは困るなぁ」と思った方。その認識は少しだけ違います。「え?だって今までパート・アルバイトは年休なんて関係なかったのが、来年から与えなければならなくなるのでしょう?」。そう思っている方も多いかもしれませんが、今でも正社員だけではなく、パート・アルバイトの従業員も年休を取得する権利は持っています。なんでも簡単にスマートフォンで検索することができる時代です。たとえ週1日の勤務であっても6か月間継続勤務すれば年休の権利が発生することは簡単に調べられます。パート・アルバイト従業員は自分でそういった事を調べて知っていることが実は多いのです。今までパート・アルバイト従業員が年休の申請をしてこなかったとしたら、それは、「職場の空気を読んで」だと思います。表立って口には出していないかもしれませんが、確実に不満は募っていることでしょう。それは決してよい事ではありませんよね。この法改正を機会に、年休をしっかり従業員へ与えるようにしませんか。しっかり休暇を与えられた従業員は趣味を楽しむ、家族との時間を持つ、休養を取るといったことで英気を養い、職場でもより生き生きと働くようになります。それが会社の活力につながるのです。

【パート・アルバイトの年休の仕組み】

まず、年休の制度について、ご説明します。

1 年休の趣旨

労働基準法は労働者の心身の疲労を回復させ、休息を取る権利として年休を規定しています。元々はヨーロッパの夏のバカンスの為に作られた制度を日本式に修正して導入したものになります。そういった事から、本来はまとまった休暇を想定した制度なのですが、真面目な日本人は長期のバカンスどころか、病気や冠婚葬祭の時ぐらいしか取らない人も多く、その取得率は正社員も含めて約50%と世界の中でも低い数字になっています。

この低調な取得率を改善するために、1987(昭和62)年に「計画年休制度」が導入され、さらに2019(平成31)年からは会社に年休付与義務が課されるようになりました。この制度について、後でご説明します。


2 年休権の発生

年休の権利(年休権)は次の要件を満たすと、法律上当然に発生します。
①雇入れの日から6か月以上継続勤務し、全労働日の8割以上出勤したこと
②①の後は1年間継続勤務し、その全労働日の8割以上出勤したこと


3 休暇日数

①正社員やフルタイム従業員の付与日数

次の3つの要件に1つでも該当する従業員の付与日数は下表の通りです。
・週所定労働時間が30時間以上
・所定労働日数が週5日以上
・所定労働日数が年間217日以上

継続勤務期間 6か月 1年
6か月
2年
6か月
3年
6か月
4年
6か月
5年
6か月
6年
6か月以上
付与日数 10日 11日 12日 14日 16日 18日 20日

 

②パート・アルバイト従業員の付与日数

上記①に該当しない従業員の付与日数は下表の通りです。所定労働日数に比例した下表の日数以上の年休を与えなければなりません。

週所定
労働日数
1年間の
所定労働日数
雇入れの日から起算した継続勤務期間
6か月 1年
6か月
2年
6か月
3年
6か月
4年
6か月
5年
6か月
6年
6か月
以上
4日 169日から
216日まで
7日 8日 9日 10日 12日 13日 15日
3日 121日から
168日まで
5日 6日 6日 8日 9日 10日 11日
2日 73日から
120日まで
3日 4日 4日 5日 6日 6日 7日
1日 48日から
72日まで
1日 2日 2日 2日 3日 3日 3日

 


4 時季指定権

年休権を持っている従業員には年休を取得する期間の始期と終期を指定する権利(時季指定権)があります。従業員の時季指定に対し、会社が他の時季に変更してくれという権利(時季変更権)を行使しない限り、指定した期間に年休が成立します。


5 時季変更権

従業員の時季指定に対し、会社は「請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる」(労基法第39条5項但書)。これを時季変更権といいます。

事業の正常な運営を妨げるとは、その従業員が事業に不可欠でかつ代替要員の確保が出来ない場合をいいますが、単にそれだけで時季変更権を行使できるわけではなく、判例は「できるだけ労働者の指定した時季に休暇を取れるよう状況に応じた配慮」を求めています。最低限の人員配置しか取られていない場合にはある従業員が年休をとれば常に事業の正常な運営を妨げる事になります。そのような状況にならないよう、会社は代替要員を確保できるような体制を整えておく必要があり、その努力をしていない場合には時季変更権の行使は認められず、たとえ事業の正常な運営が出来ない場合でも、従業員の指定する時季に与えなければなりません。


6 計画年休制度

従業員が自由に時季指定できる年休に加えて、1987(昭和62)年に取得時期をあらかじめ労使で話し合って決めることが出来る「計画年休制度」が導入されました(労基法第39条6項)。年休取得日をあらかじめ決めておくことが出来るために、会社は人員配置計画が立てやすいという利点があります。ただし、従業員が自由に取得できる年休を5日分は残しておかなければいけません。また、計画年休を実際に実施するには、①付与日や手続き等について労使協定を締結すること、②労使協定の定めるところにより年休付与する旨を就業規則で規定すること、が必要になります。一見手間がかかるように思えますが、海外の年休制度ではよく行われている方法です。2019(平成31)年からの年休付与義務に対応するにもよい方法ですので積極的に導入を検討するべきでしょう。計画年休制度には次の3つの方法があります。

①会社や事業場全体での一斉休暇

会社や事業場全体ですべての従業員が一斉に年休を取得する方法です。付与日については、ゴールデンウィーク、お盆期間、年末年始などの大型連休に休暇日を加える形で定める、取引先の休業日に合わせて定める、といったことをします。全従業員が休むわけですから、社内での人員配置の調整がいらないというメリットがあります。

②班・部署別の交代制休暇

①のように全員が一斉に休暇を取得して会社休業日とすることが難しい場合には班や部署ごとに交代して休暇を取得することを検討します。

③計画表による個人別休暇

会社が年度当初などに従業員に年休カレンダーへ記入をさせるなどの形で年休取得希望日を聴取し、会社の方で調整をしたうえで各人ごとに休暇日を定める方法です。この方法は海外でよくやられています。当初から休暇日が分かっているので従業員も休暇に向けて自分の仕事のマネジメントをすることが出来ますし、周囲も休みをフォローする体制をつくることが出来ます。会社としても事前に余裕を持った人員配置計画が立てることができるメリットがあります。

以上が年休制度についてのご説明になります。

次に2019(平成31)年から会社に課される、年5日の年休付与義務についてご説明します。


【年5日の年次有給休暇の付与義務について】

1 対象となる従業員

年休付与日数が年10日以上の従業員が対象になります。例えば週所定労働日数が4日の従業員は、継続勤務3年6か月になり、8割出勤を満たせば10日付与されることになり、このときから対象となります。


2 付与する期間

対象の従業員ごとに、年休を付与した日(基準日)から1年以内に5日、会社が時季を定めて年休を与える義務があります。


3 従業員が自主的に取得した日数と計画年休で取得した日数は控除可能。

従業員が自ら申し出て取得した年休の日数と労使協定を結んで計画的に付与した年休の日数は付与義務の5日からそれぞれ控除することが出来ます。例えば自主的に3日、計画年休で2日の年休を取得した従業員は合計して5日取得していますので、会社は年5日の付与義務を果たしたことになります。


4 時季について従業員からの意見聴取

会社は、労働基準法第39条7項の付与義務により、従業員の年休の時季を定める場合にはそのことを従業員に明らかにした上で、その時季について従業員の意見を聴かなければいけません(厚生労働省令)。また、会社は出来る限り従業員の希望に沿った時季となるよう、努めなければならないとされています。


5 罰則

年5日の年次有給休暇付与義務違反をすると、30万円以下の罰金になります(労働基準法第120条1項)。


6 年次有給休暇管理簿の作成と保存(3年間)の義務

会社は年休を与えた時季、日数、基準日が従業員ごとに分かるように年次有給休暇管理簿を作成し、期間満了後3年間保存しなければなりません(厚生労働省令)。今まで一度も年休を取得していなかった従業員がいる場合、作成されていない可能性もありますので確認をしてください。

今後、会社は従業員が1年で5日以上取得していることを、この管理簿を基にチェックをすることが必要です。

 

【人手不足の中で年休を取得できるようにするために】

人が少ない中で年休を与えても、業務に支障が出ないようにするためにはどのようにすればよいでしょうか。
もちろん増員するのも対策の一つです。他に効果的な対策の一つとして、一人の従業員が担当できる業務の種類を増やす事、つまり多能工化に取り組んでみてはどうでしょうか。特定の従業員にしか担当できない業務がある場合、その従業員が年休を取得すると困りますよね。そうならないように他の従業員でもその業務の担当を出来るようにしておくのです。具体的には次のような手順で行います。

1 業務の効率化を図る

多能工化に取り組む前段階として、業務の効率化に取り組みます。例えば従業員にヒアリングをし、業務の改善点を洗い出します。その時には違う部署の視点も入れると、良いでしょう。他から見ると「なぜあのような効率の悪いことをやっているのだろう」と思いながらも他部署のことと遠慮をして言わない人も多いのです。沢山の改善点を出してもらうような雰囲気づくりをしながら行う事が大切です。

また、生産性を高めるITツールなどの導入を行うのもよいでしょう。


2 業務のマニュアル化

業務の効率化を進めたら、次は業務のマニュアル化に取り組みます。すべての業務一つ一つについて、作業マニュアルを作ります。例えば電話対応マニュアル、顧客対応マニュアル、業務ソフト操作マニュアルなど、出来るだけ作業ごと詳細に作成するようにします。Q&Aや事例集も作成するようにします。時間がかかる作業になりますが、このマニュアル作りの過程で業務の無駄に気づくことも多く、業務効率化にもつながります。このマニュアルを基に従業員は業務を行っていくことになりますのでマニュアル作りは非常に大切です。


3 従業員の教育

マニュアルの作成を終えたら、次はマニュアルを基に各従業員が各業務を行えるように教育をします。マニュアルの完成度が高いほど短期間でマスターできるようになります。

多能工化に取り組むことで、従業員がお互いにフォローしあえるようになり、会社全体としての作業時間減少の効果も期待できます。

チームで働く環境をつくり、スタッフにチームのシフト管理を任せる

多能工化を進め、従業員同士がお互いにフォローしあえるようになると柔軟なシフトが可能になります。
そこでシフト表の作成と管理をスタッフに任せてみてはどうでしょうか。スタッフの自主性に任せ、スタッフ同士である程度責任をもって調整をしてもらうのです。もちろん、必要な管理はしますが、スタッフに任せられることはスタッフに任せることで、管理者は本来の管理業務に専念できます。

【まとめ】

人手不足の時代になり、少人数で効率よく働くことが求められてきます。そのためにはITツール導入等を含めた業務の効率化、一人の従業員が複数の業務を担当できるように多能工化を進めることが重要になっていくと考えられます。自社における正社員の役割、パート・アルバイトの役割を再構築するなどをして会社組織自体を変えることも必要になっていくでしょう。
平成の時代も終わり、これからの新しい時代を見据えた組織づくりをし、従業員が私生活も仕事も充実して生き生きと働く、そんな活力ある魅力的な会社にしていくことが大切なのだと思います。

 

著者:ドゥライト・鈴木社会保険労務士事務所
社会保険労務士 鈴木泰広