取引先から切られる? SDGsが中小企業にとって重要になる理由
持続可能な社会を実現するために作られた、世界共通の開発目標“SDGs”。
SDGsとは、“Sustainable Development Goals”の略で、2015年に国連で採択されてから数年が経った今、社会は確実にSDGsの実現のために動き始めています。その潮流に乗ることは、中小企業にとってはビジネスチャンスにもなるでしょう。
一方で、SDGsを意識しない経営は、就活生や顧客から選ばれない会社になるというリスクをはらんでいます。本記事では、書籍『やるべきことがすぐわかる! SDGs実践入門 ~中小企業経営者&担当者が知っておくべき85の原則』を参考に、SDGsの実践方法について提案します。
SDGsとは何か?
改めて、SDGsの定義について確認しましょう。SDGsとは持続可能な社会を実現するために、2015年に国連で採択され、2016年から2030年までの15年間で実現を目指す世界共通の国際目標です。先進国を含めて、より広範な社会問題や環境問題の解決をゴールにしています。
世界は飢餓や人権侵害、経済格差、気候変動にともなう自然災害など、さまざまな問題に直面しています。これらの問題は私たちの社会やビジネスを脅かしています。SDGsは、「誰ひとり取り残さない」という基本理念のもとに、持続可能な社会を実現するために、17の目標と、目標を実現するための169のターゲット、取り組みを評価するための244の指標が設定されています。
SDGsが生まれた背景には、ESG問題があります。ESG問題とは、環境問題(Environment)、社会問題(Social)、組織統治問題(Governance)の頭文字をとったものです。例えば、自然災害や資源の枯渇を始めとする環境問題は、事業拠点の被災や資源価格の高騰といった形での成長を脅かします。
また、社会問題は、購買力の低下や市場の縮小などを表します。組織統治問題は、法的規制の強化といった形で企業の自由を脅かします。これらは、ビジネスの制約になるとともに、私たちが暮らす社会の持続可能性も脅かすリスクを含んでいるのです。このESG問題を具体化して17のテーマとして表現したのがSDGsの目標ということになります。
ESG問題は社会の困ったことを、環境、社会性、組織統治という3つの視点から捉えています。みんなの「困った」の集合体ですから、ビジネスの観点から見ればニーズの固まりです。この課題解決に取り組むことで、企業はソーシャルビジネスを推進できるとともに、新しいビジネスの種になるメリットも秘めています。
CSR調達を意識しないと仕事を切られる?
SDGsは大企業ばかりではなく、中小企業のビジネスにも関係があります。大企業ではすでに全体のサプライチェーンを意識して、CSR(Corporate Social Responsibility)調達を積極的に行っているのが現状です。
「CSR調達は、取引先を選ぶ際の基準として価格や機能だけでなく、CSRの状況も評価に含めるという調達方法のことです。環境や社会への影響力がある大企業は、機関投資家やNGO(非政府組織)などからESG問題への取り組みをチェックされる立場にあります」
『やるべきことがすぐわかる! SDGs実践入門 ~中小企業経営者&担当者が知っておくべき85の原則』より
世の中には、森林破壊をした企業の製品の不買運動が起こったり、環境を壊している企業をマスコミが追求したりして、企業の信用を失墜させるような事件があります。
だからこそ、大企業が仕事を依頼するときには、下請けである中小企業がコンプライアンスを遵守しているかチェックし、基準に合わないところは、サプライチェーンから外れてもらうということも起こっています。中小企業にとって、CSR調達への適合力を高めることは、SDGs時代の生存戦略と言えるのです。
SDGsはビジネスの棚卸を助けてくれるツールにもなる
企業は毎年、決算によって自社の現状を把握しています。しかし、ESG問題がビジネスの成長の制約要因となっている現在では、企業の棚卸はもはや“経済性の棚卸”だけでは不十分です。
今後、企業はESG問題の対応を想定した社会性の棚卸をする必要があります。SDGsは17の目標を通じて、網羅的にESG問題を提示しているので、ツールとして次のような使い方ができます。
①SDGsの各目標を参考に、自社のビジネスに影響を与えるESG問題を知る
②自社の活動をSDGsの枠組みでチェックし、実践できている目標と実践できていない目標を整理する
③整理した結果をビジネスの改善に活用する
『やるべきことがすぐわかる! SDGs実践入門 ~中小企業経営者&担当者が知っておくべき85の原則』より
自社の商品やサービスを棚卸しすることは、持続可能な会社経営にも役立っていくことでしょう。SDGs経営を始める第一歩として、17の目標をツールとして用い、「どのような改善点や改革の視点があるのか」と考えることから始めてみませんか?
もし、SDGsを意識しないと…?
SDGsを意識しないまま突き進んでいったらどうなるでしょうか。仮に数年は売上が好調でも、社会性が乏しいビジネスになってしまうかもしれません。
例えば対面のみの飲食店が、今の時代にそぐわず廃業してしまうケースは増えています。コロナ禍では、社会性がマッチせず事業を持続できない場合があります。
解決策の一つとしては、組織全体を通したオペレーションを考え、デリバリー販売手法を構築したり、工場のラインを変えたりすることが考えられます。SDGsにそって動いていく世の中の流れを見ながら、ビジネスの社会性がしっかり担保されているのかを確認することが、企業の経営とっても大事なポイントになっていくはずです。
SDGsは業務・雇用にも影響する
現在では、中高生や大学の授業の中でもSDGsを詳しく学んでいます。そのため、就職時にもSDGsの視点をもって企業を選ぶ人も多くなっています。そのような中で、労基法違反や健康経営を重要視しないような、社会性に乏しい企業は学生たちから就職先として選ばなくなっているのです。
長時間の残業やパワハラがある会社なども、ブラック企業として公表されてしまう可能性があります。もし社員が過労死してしまえば、社会的制裁とともに、多額な損害賠償を背負うリスクもあるのです。
社会的な環境という点では、2021年から中小企業の“同一労働同一賃金”や、70歳雇用への努力義務が始まります。そういった雇用環境の変化も意識しておかないと、持続可能な経営が難しくなってくるのです。
やはり意識をしてSDGsの17の目標をチェックしていくのが大事だと思いますし、そこにビジネスのチャンスがあるのではないでしょうか。
執筆者: 矢萩大輔 / 2021.06.02掲載