「自律分散型組織」における全員参加型評価制度
(有)人事・労務 社会保険労務士の畑中です。以前、「Being(あり方)を軸とした等級基準」についてお話をさせていただきました。
では、このような「自律分散型」の組織では、評価はどのように行われるべきなのでしょうか。究極的に言えば、「ティール組織」でも紹介されているように、自分の報酬も皆の話し合いで自分たちで決定するというしくみが徐々に浸透していくかもしれません。ただ、現時点ではそのようなことができる組織はかなり少ないでしょう。ただ、基本給などの決定は難しいとしても、「今期の利益の分配である賞与」に関しては、全社員が参加して賞与の分配を行うということを実践してきている会社も増えていています。今回は、50名程度までの「自律分散型企業」で実践されつつある報酬分配制度をご紹介します。
「自律分散型」組織においては、これまでの「上司が部下を評価する」という評価手法ではなく、「関わったすべてのメンバーが集まって話し合い、自分の報酬を決定する」ことが最も納得感の高い方法になります。その大前提として、できる限り情報がオープンになっており、だれがどのようなことをしているのかが見える職場になっていないといけません。ただ、今の職場は一人一人が多様な仕事やいろんなプロジェクトに携わっており、チームメンバーがそれぞれどのような仕事を正確に把握すること、ましてや評価をして賞与を決定することは、話し合いだけではかなりむつかしいでしょう。そのため、定期的に以下のような会議を実施し、貢献に応じてポイントを付与するというしくみをつくり、獲得したポイントに従って賞与額を決定するという方法が取り入れられています。
- 貢献ポイント決定までの流れ
実際に貢献ポイントを決定するまでの流れは以下のようなものです。
① まず、全社員が今季の自分の仕事について自己申告シートを記入し、チームミーティングメンバーに事前に共有しておきます。なお、チームミーティングについては、原則的に希望すればだれでも参加できるようにしておくべきです。A部門のミーテイングであっても、それに深く関わっているB部門のメンバーが参加したいなら、参加すべきですし、チームリーダーはそのようなメンバーには声を掛けて参加してもらうように促すべきでしょう。またこのミーティングは部門別に限らず、プロジェクト別など、必要に応じて柔軟に実施されるべきです
なお、自己申告シートには、以下の1~4について記入しておきます。
図① 自己申告シート
② チームミーティング
チームミーティングは、リアルに集まって行ってもいいのですが、より参加しやすくするため、また、内容を録画して社内に後で公表するためにzoomなどのウェブ会議システムを利用して行うのがいいでしょう。
会議は、まずリーダーが今期のチームとしての結果を発表することから始めます。これは具体的な数字など、できるだけ客観的事実をのべるようにし、リーダー自身の主観的な評価(例えば、●●さんが特にがんばってくれたなど)はこの時点では話さないようにします。
次にメンバー全員(リーダーも含めて)が準備していた1~4の内容を発表します。特に時間を割いて話してもらいたい内容は2です。話全体の9割以上をこれに割いてもいいでしょう。周囲のメンバーは、できるだけ口を挟まずに発表者の話を聞くようにします。
全メンバーが話終えると、一度メンバー全員がどのような貢献であったかしっかりと考え、意見交換や質問などをし、よりメンバーのやってきたことの共有をするようにします。そのうえで、特にどの方が今季、チームへの貢献が大きかったかを話し合うようにします。この段階であえて順位などを付ける必要はありません。なお、貢献については本人の等級や役割を把握したうえで話を進めるようにしなければなりません。当然のことですが、4等級の人と1等級の人とでは、求められる役割は違ってくるからです。
③ チームミーティングが終わると、その内容は基本的に編集することなく社内で共有します。次の貢献ポイント決定会議に参加するメンバーは、原則的にこの動画をすべて見るようにします。これがかなり負担にはなりますが、1年や6か月に1度のことなので、全メンバーが何をしているか、ある程度把握したうえで、評価が最終的に決定される会議に参加すべきです
④ コミュニティ社員が全員参加して「貢献ポイント決定会議」を開催します。これは、できればリアルに集まっての会議がいいでしょう。なお、この会議には希望者であればだれでも参加できるようなオープンなものにすべきです。ただし、最終決定権があるのはコミュニティ型の社員とし、ジョブ型やエントリー社員はオブザーバーとしての参加とします。
*コミュニティ型社員とジョブ型社員については、以下のブログを参照
アフターコロナの人事制度① 「ジョブ型雇用」主流の中で、新たな「コミュニティ型社員」が生まれる?
アフターコロナの人事制度② 新しい会社の人事体系は「コミュニティ」型社員を軸に考える
貢献ポイントをどのように決定するかは、各会社の考え方によります。例えば、以下のように、全体の60%はB評価年、貢献の高かった40%に特別ポイントを付与するようにするのも一つの方法です。
そのうえで、
SS・・100P S・・50P A・・30P B・・10P
などと、ポイントを付与し、そのポイントに従って賞与額を決定します。
評価として、下位評価(C・D・Eといった下位評価)も行うかという問題がありますが、これからの仕事はこれまでのように皆が同じ仕事をしているということはなくなっていくでしょう。そのような状況では、あえて、減点評価はせずにあきらかに貢献度が高い方への加点評価のみを軸に運用を行っていくべきでしょう。
あまりにも貢献度が低い方については、組織として経営陣との個別面談や等級の変更などで対応していくべきです。
賞与原資をポイントに応じてどのように分配していくかについては、次回お話します。